いよいよ明日に公示を控えた参院選。最大の争点となる「憲法改正」議論のなかでも、賛否が分かれるのが戦争放棄を掲げた憲法9条改正の問題だ。自民党が2012年に公表した9条改正草案で、特に目を引くのが「国防軍」「審判所」という文言。「自衛隊」が「国防軍」になることで、いったい何が変わるのか? そして「審判所」って何だ? 自民党の改正案を細かく見ていこう。
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《自民党草案憲法9条の2(国防軍)》
●我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、
内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
●国防軍は、(中略)国際社会の平和と安全を確保するために
国際的に協調して行われる活動
及び公の秩序を維持し、
又は国民の生命若しくは
自由を守るための活動を行うことができる。
●国防軍に属する軍人その他の
公務員がその職務の実施に伴う罪
又は国防軍の機密に関する罪を
犯した場合の裁判を行うため、
法律の定めるところにより、
国防軍に審判所を置く。
この場合においては、被告人が
裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
***
まずひとつ目の項目で宣言する「国防軍」についてだが、2005年に政権与党だった自民党が出した新憲法草案では「自衛軍」という表現だった。その後、民主党に大敗し、野党に転落。再び政権に返り咲くまでの間に草案をさらに改訂、「国防軍」という名称が生まれた。
それでは、現在の自衛隊と「国防軍」には、どのような違いがあるのだろうか? 慶應義塾大学の小林節(せつ)教授は苦笑しながらこう答えた。
「両者に大した違いはありません。憲法上、軍隊としての法的根拠を与えられることが大切で、名称なんてものはなんでもいいのですから。事実、草案を作成した自民党議員に聞いたら、『深い意味はない。多数決でそう決まった』と言っていました。はっきり言って、この名称は自民党の“趣味”でしかありません」
なんと、「自衛隊」と「国防軍」は特に違いはなかったのだった……。
草案のふたつ目の項目は、国連会議によって海外への派兵が可能だということを意味している。では、3つ目の項目にある「審判所」とはなんだろうか。一橋大学の渡辺治(おさむ)名誉教授がこう説明する。
「『審判所』とは軍が自らの権限で、軍法に従って兵士の非行や犯罪を裁く、いわゆる軍法会議のことです。海外で戦争になれば、必ず戦闘忌避や敵前逃亡する兵士が出てくるものです。それを日本に送還し、通常の裁判所で裁くような悠長なことをしていたら、命のやりとりをする戦争なんてできっこありません。
『審判所』は兵士を強制的に戦場に縛りつけ、敵兵と戦わせるためにもどうしても必要なものなのです。自衛隊を海外の戦地に派遣できるだけでは戦争はできません。戦争することを予定していない憲法を抜本的に改変して、日本を米軍と一緒に戦争できる国にするためには欠かせない改憲のメニューのひとつなのでしょう」
自民党による草案では、ほかにも現行の憲法9条第二章のタイトル「戦争の放棄」を「安全保障」と変えたり、「戦力を保持しない」という条文を削除するなど、9条の“根本”における大きな変更を企図している。やはり彼らは、どうあってもこの国を「合法的に戦争できる国」にしたいようだ……。 【関連記事】
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●我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、
内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
●国防軍は、(中略)国際社会の平和と安全を確保するために
国際的に協調して行われる活動
及び公の秩序を維持し、
又は国民の生命若しくは
自由を守るための活動を行うことができる。
●国防軍に属する軍人その他の
公務員がその職務の実施に伴う罪
又は国防軍の機密に関する罪を
犯した場合の裁判を行うため、
法律の定めるところにより、
国防軍に審判所を置く。
この場合においては、被告人が
裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
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まずひとつ目の項目で宣言する「国防軍」についてだが、2005年に政権与党だった自民党が出した新憲法草案では「自衛軍」という表現だった。その後、民主党に大敗し、野党に転落。再び政権に返り咲くまでの間に草案をさらに改訂、「国防軍」という名称が生まれた。
それでは、現在の自衛隊と「国防軍」には、どのような違いがあるのだろうか? 慶應義塾大学の小林節(せつ)教授は苦笑しながらこう答えた。
「両者に大した違いはありません。憲法上、軍隊としての法的根拠を与えられることが大切で、名称なんてものはなんでもいいのですから。事実、草案を作成した自民党議員に聞いたら、『深い意味はない。多数決でそう決まった』と言っていました。はっきり言って、この名称は自民党の“趣味”でしかありません」
なんと、「自衛隊」と「国防軍」は特に違いはなかったのだった……。
草案のふたつ目の項目は、国連会議によって海外への派兵が可能だということを意味している。では、3つ目の項目にある「審判所」とはなんだろうか。一橋大学の渡辺治(おさむ)名誉教授がこう説明する。
「『審判所』とは軍が自らの権限で、軍法に従って兵士の非行や犯罪を裁く、いわゆる軍法会議のことです。海外で戦争になれば、必ず戦闘忌避や敵前逃亡する兵士が出てくるものです。それを日本に送還し、通常の裁判所で裁くような悠長なことをしていたら、命のやりとりをする戦争なんてできっこありません。
『審判所』は兵士を強制的に戦場に縛りつけ、敵兵と戦わせるためにもどうしても必要なものなのです。自衛隊を海外の戦地に派遣できるだけでは戦争はできません。戦争することを予定していない憲法を抜本的に改変して、日本を米軍と一緒に戦争できる国にするためには欠かせない改憲のメニューのひとつなのでしょう」
自民党による草案では、ほかにも現行の憲法9条第二章のタイトル「戦争の放棄」を「安全保障」と変えたり、「戦力を保持しない」という条文を削除するなど、9条の“根本”における大きな変更を企図している。やはり彼らは、どうあってもこの国を「合法的に戦争できる国」にしたいようだ……。 【関連記事】
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