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アニメ評論家・藤津亮太「アニメを進化させたのはビジネスである」

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50年にわたるアニメの進化は、実は、時代に応じた“ビジネス”からもたらされた。そして、2010年代に開拓されたアニメのジャンルとは? 評論家の藤津亮太が書き下ろす。

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現在の30分テレビアニメの制作費は、1話当たり1300万から1500万円ほどかかるといわれている。1クール(全13話)のシリーズなら総制作費は2億円弱かかる計算になる。では、それほどの制作費をどうやって調達・回収してきたのか。

結論から言うと、「テレビアニメ50年の歴史」とは、実は「アニメビジネスの変遷の歴史」でもある。

1950年代末から、各テレビ局は海外ドラマなどの輸入作品から、国産ソフトへと力を入れるようになった。国産アニメの登場もその一環と言える。本格的な国産テレビアニメの時代は、1963年の『鉄腕アトム』放送から始まった。

この黎明期、テレビアニメのスポンサーは玩具メーカーではなく、お菓子メーカーなどが多かった。例えば『鉄腕アトム』には明治製菓、『鉄28号』には江崎グリコがついていた。お菓子にシールなどのキャラクターグッズがおまけとしてつけられていて、制作費の足りない部分は、こうしたキャラクターグッズのキャラクター使用料で補填された。

次の転換点は1970年代半ば。ロボット玩具に人気が集まるなか、先に玩具メーカー主導で完成させた玩具を、アニメのなかに登場させるという手法が確立された。

ロボットアニメは、視聴率競争の激しいプライムタイム(特に19時台)で放送されることよりも、夕方枠で放送されるほうが多かった。夕方枠はプライムよりも平均視聴率は低い。しかし番組を放送するためにテレビ局に支払う電波料は安い。視聴率がプライムより低くても、玩具がちゃんと売れれば、玩具メーカーにとってはコストパフォーマンスのよい放送枠なのだ。

こうして1980年代半ばぐらいまでは、大雑把に言って「プライムタイムは人気マンガのアニメ化」「夕方枠はロボットもの」という構図が続く。

そんななか、1977年の映画版『宇宙戦艦ヤマト』のヒットを皮切りにアニメブームが起き、『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』を経て、ブームは1984年まで継続した。これを牽引したのは、1960年から1970年前後に生まれた青少年たちだった。これまで子供のものだと思われていたアニメが、中高生の趣味のひとつとして認めらるようになったのだ。







しかし1985年以降、テレビアニメは再編の時期に入る。再び対象年齢が下がったり、オリジナル企画が減って、ファミリーものや『週刊少年ジャンプ』に掲載されていた人気マンガのアニメ化が中心となる。

これらのテレビアニメを観て育ったのが、1980年前後生まれの世代。彼らが中学生のとき、ちょうど彼らと同世代の14歳の少年少女が主人公の『新世紀エヴァンゲリオン』が放送され、大ヒットとなる。

この『エヴァ』のヒット後、アニメに大きな転換点が現れる。それは「製作委員会方式」と「深夜アニメ」の登場だ。

1990年代後半から2000年代にかけて、少子化などの影響もあり、アニメの視聴率はじわじわと下がってきた。それは、スポンサーから製作費をもらってアニメを制作し、スポンサーは関連商品の売り上げで製作費を回収する、というビジネスモデルの限界でもあった。

その代わりに増えたのが、複数の企業が製作費を分担して出費し、番組を収録したDVDなどを販売し、製作費を回収するというビジネスモデルだ。そして、それまでスポンサーがつくことが少なかったテレビの深夜枠が、こうしたビジネスモデルによって作られた作品の放送枠として活用された。

深夜枠は、低視聴率ではあっても、作品を知ってもらい映像ソフトを購入させる動機づけになる程度には、十分な伝達力を持っている。かくして、テレビアニメの数割が、深夜放送となる時代が到来した。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『魔法少女まどか☆マギカ』は、そんな時代を代表する作品と言える。

最近よく聞かれるのは、「映像ソフトは苦戦したが、アニメ化によって原作コミックは売れた」というケース。昨年からじわじわ増えている5分枠アニメ(『あいまいみー』『まんがーる』など)は、製作委員会方式ではなく出版社単独出資で作られているので、これもそうした原作コミックのプロモーションとして作られているのであろうことがうかがえる。

さらに、今ではモバイル端末配信でアニメを観る人も増えているという。モバイル端末で移動中にアニメを観るとなると、30分番組はちょっと長すぎる。モバイル端末で視聴するユーザーが増えれば、数分で観終えられるショートアニメへのニーズも増えるかもしれない。また、モバイル端末配信はネット配信と異なり、カード不要で課金できるため、中高生に向けて有料サービスを展開することも可能だ。

アニメは世につれ、ビジネスにつれ。おそらく次の新しい「アニメのカタチ(ビジネスモデル)」は、このモバイル端末配信のアニメから生まれるのではないか。アニメの歴史はまだまだ変わっていく。

●藤津亮太(ふじつ・りょうた)







アニメーション評論家。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)など。連載多数。朝日カルチャーセンター、東急セミナーBEなどでアニメに関する講師も務めている 【関連記事】
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