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伸び悩みの時期を迎えると、いつまでも停止もしくは後退している状態に陥り、周りの他の誰もがより高いところに上り続けているのに、自分だけ置いてけぼりを食らっている気になるものです。このような伸び悩みに、心理学的にどう対応するかが、永遠に伸び悩んだままになるのかどうかの分かれ目。感情的な試練であり、あきらめたくなることもあるかもしれません。
米作家デヴィッド・フォスター・ウォレス(David Foster Wallace)氏の著書『Infinite Jest』では、テニスコーチの立場から、テニスを習得する上でいくつもの伸び悩みを経験しながら上達し続けるために、「避けるべき3つのタイプ」を挙げ、克服のためのアプローチをタイプ別に指南しています。
この記事では、ウォレス氏の記述を参照しながら、「伸び悩み」のメカニズムとその克服法について、みていきましょう。
1. やけになるタイプ
「やけになるタイプは、比較的上達が速い時期はいいのですが、伸び悩みに直面すると、足止めをくらっている気になりがち。上達しないどころか、下手になっていると感じて、イライラし、やけになります。頑張ったり、精を出すといった謙虚さや忍耐強さがなく、伸び悩み状態にある時間が耐えられないのです。すると、どうなるでしょう?」
「ジェロニモ!」コーチの問いかけに、教え子たちは声を揃えて答えました。
── デヴィッド・フォスター・ウォレス『Infinite Jest』)
これは、多くの場合、習得に至るまでの道のりにおいて直面する「最初の通過点」です。ショックかもしれませんが、「自分も多分に漏れず一夜にして成功するわけではなく、習得までには長い時間がかかる」と悟るべきタイミングです。
短期間で満足を得たい「上達オタク」は、あきらめてしまうかもしれません。成功を左右するのは、才能よりもむしろ性格です。
米ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania)の心理学教授アンジェラ・ダックワース(Angela Duckworth)氏は、『The Plateau Effect』において、「近視眼的で、次の瞬間しか考えられず、『今の状態から抜け出すために次の数秒で何をしようか?』という視点で物事を判断しているなら、伸び悩みに直面したとき、『あきらめて、別のことに移ろう』という結論に至るのは自明です」と述べています。
その一方で、「より大きな枠組みから物事を捉えることができれば、長期的な視点で、自分の労力や時間を賢明な選択や投資に充てられるはず」とも指摘しています。つまり、成功に最も大きな役割を果たすのは、素質や才能ではなく、気概なのです。
ダックワース氏は、気概を「習得できるまでの長期間にわたって、物事に取り組むこと」と定義し、「気概のある人はマラソンのようなアプローチで上達します。スタミナこそ強みです」と述べています。
また、基本訓練開始前の米陸軍士官候補生1200名を対象に、ダックワース氏が独自の気概指標をもとに測定したところ、気概が高いと認められた候補生のほうが、そうでない候補生に比べ、訓練をやり遂げた人が6割も多かったそうです。
やけになるタイプの克服アプローチ: 気概を持ち、やり続けること
2. 強迫観念に取り憑かれているタイプ
「強迫観念に囚われているタイプは、伸び悩みをなんとか飛び越そうということに熱心です。伸び悩みに直面すると、力づくで乗り越えようと、異常なほどにがんばり、自分に無理強いします。歩くことさえままならず、ランキングが急降下する状態になるまで、がんばりすぎてケガを負い、慢性的に失敗し、コートの周りを重いカラダを引きずりながらも、なお『頑張らなければ』と思い込み続けるのです。」
── デヴィッド・フォスター・ウォレス『Infinite Jest』
1885年、独心理学者ハーマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)氏は、いわゆる「分散効果(spacing effect)」を発見しました。エビングハウス氏は難解な言葉を勉強し、勉強会の間隔をあけると、言葉の学習と記憶が大幅に向上することを明らかにしています(詳細は英文記事参照)。
一夜漬けでテストに臨み、あっという間にすべて忘れてしまう学生さんなら、このことが直感的に理解できるでしょう。短時間で詰めこむよりも、長い時間、間隔をあけて、複数回勉強するほうが、概念を学ぶ能力が向上するということを表す事例です。
一方で、「分散効果」は直感に反するように見えます。なぜなら、他人からは怠けているように誤解されがちだからです。実際、頑張ったところで得られる成果はだんだんと減っていき停滞するのですが、何もしないでいるよりも、自分の尻を叩いて頑張るほうが論理的であるように感じるものです。「分散効果」は、ヒトの学習と上達において、忍耐が果たす役割を示しています。
「上達のために休憩と若返りが必要」というのは事実。生産性と睡眠に強い関連があるのと同様です(このテーマについては、ライフハッカーアーカイブ記事「生産性を最大限に高める『集中と休息の黄金比率』」もご参考まで)。せっかちになり休むことを拒んでいると、成果が頭打ちになるだけでなく、自らをより激しく叱咤するにつれて、ケガやバーンアウト(燃え尽き)を起こすリスクが高まり、快復までに長い時間を要することになるかもしれません。
強迫観念に取り憑かれているタイプの克服アプローチ:ついそうしたくなる衝動に駆られても、無理強いはしないこと
3. 独りよがりタイプ
最も厄介なのが、独りよがりタイプ。「自分は辛抱強い人間だ」と巧みに偽り、イライラをごまかすことができるからです。このタイプは、伸び悩みの時期を迎えるまで徹底的に上達し、その上達経験に満足します。ゆえに、伸び悩んでいても気に留めず、そこから脱却しようともがくこともありません。弱点を埋め合わせるようにゲーム全体を設計しますが、直面している伸び悩みから逃れることはできません。次第に、今まで自分が勝っていた相手に負けるようになり、ランキングも落ち始めますが、「気にしない」と言うでしょう。いつも笑顔でいるけれど、その笑顔はどこかかたく、おどおどしています。誰にでも人当たりはいいけれど、他の選手が伸び悩みを克服していく一方、いつまでも同じ状態のままで、さらに負けていきます。しかし、その状況に甘んじているのです。
── デヴィッド・フォスター・ウォレス著『Infinite Jest』
これは順応から始まるものです。最初は伸び悩みを嫌いますが、次第に慣れ、ついにはそれが必要になります。もはや伸び悩みは、なじみのない不快なものではなくなるのです。その代わり、この横ばいの時期が新たな日常になります。ヒトの脳は刺激に適応するので、あなたが思うよりたやすく、このようなことが起こり得ます。
例えば、夏に地下鉄を歩くと、最初は埃っぽくて不快な臭いが鼻をつくでしょうが、しばらく経つと、ほとんど気づかなくなるでしょう。これは、嗅覚の感度が一時的に低下する「嗅覚疲労」のプロセスを通じて起こるもので、神経適応のひとつです。
ヒトの感覚神経は新しい刺激にさらされるとすぐに反応しますが、継続的にその刺激にさらされると反応は減少し、身も心も麻痺してしまいます。
物事を再び軌道に乗せるには、新しい刺激にさらされる必要がありますが、ここには障害があります。何か新しいことに挑戦すると、良くならないどころか、むしろ悪化する可能性すらあるからです。実際、良くなる前には、悪化しがちです。
「良くなる」とは、すでに持っているものを危険な状態にさらすことです。利益の獲得よりも損失の回避を優先する「損失回避」へ挑むということを意味します。損失回避は、極めて強い影響力を持つ性向です。ある研究において「賭けに負けると20ドル損をする」という勝率五分のコイントスをもちかけたところ、被験者たちは、勝ったときの賞金として最低40ドルを要求したとか。人間は不合理にも、勝ったときには負けた場合の損失額の倍は得たいと考えるようです。
損失回避の致命的な点は、自分では至極真っ当なことをやっているつもりでも、実際は「自分が持っているものを失うかもしれない」という根深い不安によって、意思決定が左右されていることです。先駆的なイノベーションで現状を打ち破ったAmazonの最高経営責任者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏のように、外部からの検証をシャットダウンし、「あえて長期間、誤解されよう」という意思を持つべきです。追求すべきは、習得そのものであって、外部からの承認や保身ではありません。
独りよがりタイプの克服アプローチ:新しいことに挑戦しよう。悪化したって大丈夫
何を習得するにせよ、一朝一夕にはいかないもの。山あり谷ありを繰り返しながら、徐々に上達するのが常のようです。この記事を参考に、ご自身のタイプを分析し、自分の性格や傾向に合ったアプローチで、伸び悩みの時期を克服していきましょう。
3 Tips on Overcoming Learning Plateaus from David Foster Wallace | 99U
Walter Chen(訳: 松岡由希子)
Photo by Thinkstock/Getty Images.
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