店内に一歩足を踏み入れると、極彩色とファンキーな造形が目の前に迫ってくる。吹き抜けの高い天井まで隙間なくギッシリ続くディスプレイと陳列商品。
宮崎県都城(みやこのじょう)市に本社を置くハンズマンは、DIYファンなら一度は訪れたい超巨大ホームセンターだ。そこには大薗誠司(おおぞの・せいじ)社長の確固たる哲学と緻密な戦略があった。
■社長も一緒にアートなディスプレイを制作
―それにしても、ものすごい数の品ぞろえです!
「確かに、ハンズマンの品ぞろえはケタ違いで、年間1万通以上も届く要望商品メモに応えているうちに、21万品目以上になってしまいました(笑)。お客さまに『ハンズマンに行けば、必ず目指す品物があるはず』という期待感と信頼感を持っていただいています。
ネジ1本から買えること、手袋片方でも買えること、お客さまが喜ぶことだったらなんでもやります。でも、ただ品数が多いだけじゃダメなんです」
―といいますと?
「わざわざ店に来ていただいたお客さまが、いかに楽しめるか、いかに便利に買い物できるか。そう考えてつくった結果が、現在のハンズマンの店舗なんです。試行錯誤しながらつくり始めて20年近く、まだまだ完成形ではありません。でも、最近ようやく求める理想に近づいてきたかもしれません。
例えば、店内を見通せる高い吹き抜けは、ハンズマン各店共通のスタイルです。人間、下を向くより上を向いたほうが楽しくなるじゃないですか。それに商品陳列は見やすくて、色彩も美しいほうがいいに決まってますよね。ガランと殺風景な倉庫風の店舗より、そのほうが楽しいですから」
―通常の商品陳列だけでなく、ひとつひとつが見事なアート作品のような商品サンプルディスプレイも飾られていますよね?
「実はこれ、従業員の皆さんと私が一緒につくるんです(笑)。このアートディスプレイの制作に、2ヵ月半はかかります。これはハンズマンの顔ともいえる部分ですからね。納得のいくベストのものができるまで何度でもやり直します。
色の配列から展示方法まで、一番見やすくて楽しめるディスプレイをとことん追求する。見たお客さまが、『わぁ!』と笑顔になってくれたら大成功ですよ」
―新店舗をオープンするたびにそんなことをやっていたら、手間が大変じゃないですか! さっさと開店して収益を上げたほうがいいような……。
「でも、何より私たちはDIYの専門店、つまりプロなわけです。まず私たち自身がいろいろやってお見せして、お客さまに『おっ、楽しそうだな。自分もやってみたいな』というイメージを膨らませていただきたい。それに自分たちでつくれば、内装業者に頼むより費用も安上がりですからね(笑)」
■店のスタッフ数は同業他社の3倍
―なるほど、自分たちでやれば顧客にDIYのアドバイスもできるし、経費削減にもなるわけですね。さっき入り口付近に巨大な噴水がありましたが、あれも自分たちでつくったんですか?
「いえ、あの巨大な噴水はイタリア製の売り物です。158万円の値札がついていますよね。でも実は、あれは売ろうと思って置いているわけじゃないんですよ。見たお客さんが『うわっ、158万円もするんだ!』と驚いてくれる(笑)。
買い物に新鮮な驚きやドキドキ感は必要でしょ? いつもの近所でのお買い物と同じじゃつまらない。せっかくハンズマンまで来たんだから、めいっぱい楽しんで、『また来たいな』と思って帰ってほしいんです」
―これほど膨大な商品を扱ったり、ディスプレイをつくったりでは、店のスタッフの仕事は大変そうですね。
「私は従業員の皆さんを使っているつもりはない。働いていただいているんです。銀行に勤めていた私が家業のハンズマンに戻って働き始めた頃、いきなりスタッフ70名規模の店長をさせてもらった。ホームセンター業界の素人だった私にとって、スタッフ全員が先生だったわけです。
当時、一番苦労したのはベテランスタッフとの人間関係ですね。私がよかれと思ってやったことが通じず、辞めていく人たちも出てくる。朝出社したら店に誰もいないという夢を何度見たことか……(笑)。もうノイローゼになりそうでしたが、こんな私に本当によくスタッフがついてきてくれました。感謝しかありませんよ」
―店内を歩いていると、ずいぶんスタッフがたくさんいるように感じますが……。
「1店舗当たりの従業員数は、同業他社の3倍近い約100人で、そのことに疑問を投げかける方もおられます。でも、お客さまからの疑問や期待に応えるハンズマンクオリティの仕事をするには、この人数は不可欠なんです。
お客さまとの間に信頼関係が築ければ、売り上げは絶対に伸びる。おかげさまで、しっかりと利益も出させていただいています。これはスタッフ全員がお客さまと正面から向き合ってがんばってくれたからこそ。人数が少なければ接客がお粗末になってしまう。人件費を削れば売り上げや利益が上がるとは、私には決して思えません」
***
午前9時からの取材の前は、早朝3時まで店舗改装の陣頭指揮を執っていたという大薗社長。
「そりゃ仕事は楽しいですよ。楽しくなけりゃDIYじゃないでしょ(笑)。店づくりにはやりたいこと、やらなきゃいけないことがいつも山積み。考える頭も、作業する手も止められません」と語る表情はエネルギッシュだ。
今も店舗の設計時には建築業者任せにせず、社長自ら模型を組み上げて修正を加えていく。子供の頃は父親がつくる木製の帆船模型を食い入るように見ていたそうだ。何もないところから自分でものをつくる楽しさの原体験は、そこにあるのかもしれない。
(取材・文/近兼拓史)
●大薗誠司(おおぞの・せいじ)
1969年生まれ、宮崎県出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、三和銀行に入行。95年に故郷に戻り、家業のハンズマンに入社。2006年に代表取締役社長に就任。ユニークな店舗づくりを推し進め、ホームセンター業界の風雲児として注目される
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宮崎県都城(みやこのじょう)市に本社を置くハンズマンは、DIYファンなら一度は訪れたい超巨大ホームセンターだ。そこには大薗誠司(おおぞの・せいじ)社長の確固たる哲学と緻密な戦略があった。
■社長も一緒にアートなディスプレイを制作
―それにしても、ものすごい数の品ぞろえです!
「確かに、ハンズマンの品ぞろえはケタ違いで、年間1万通以上も届く要望商品メモに応えているうちに、21万品目以上になってしまいました(笑)。お客さまに『ハンズマンに行けば、必ず目指す品物があるはず』という期待感と信頼感を持っていただいています。
ネジ1本から買えること、手袋片方でも買えること、お客さまが喜ぶことだったらなんでもやります。でも、ただ品数が多いだけじゃダメなんです」
―といいますと?
「わざわざ店に来ていただいたお客さまが、いかに楽しめるか、いかに便利に買い物できるか。そう考えてつくった結果が、現在のハンズマンの店舗なんです。試行錯誤しながらつくり始めて20年近く、まだまだ完成形ではありません。でも、最近ようやく求める理想に近づいてきたかもしれません。
例えば、店内を見通せる高い吹き抜けは、ハンズマン各店共通のスタイルです。人間、下を向くより上を向いたほうが楽しくなるじゃないですか。それに商品陳列は見やすくて、色彩も美しいほうがいいに決まってますよね。ガランと殺風景な倉庫風の店舗より、そのほうが楽しいですから」
―通常の商品陳列だけでなく、ひとつひとつが見事なアート作品のような商品サンプルディスプレイも飾られていますよね?
「実はこれ、従業員の皆さんと私が一緒につくるんです(笑)。このアートディスプレイの制作に、2ヵ月半はかかります。これはハンズマンの顔ともいえる部分ですからね。納得のいくベストのものができるまで何度でもやり直します。
色の配列から展示方法まで、一番見やすくて楽しめるディスプレイをとことん追求する。見たお客さまが、『わぁ!』と笑顔になってくれたら大成功ですよ」
―新店舗をオープンするたびにそんなことをやっていたら、手間が大変じゃないですか! さっさと開店して収益を上げたほうがいいような……。
「でも、何より私たちはDIYの専門店、つまりプロなわけです。まず私たち自身がいろいろやってお見せして、お客さまに『おっ、楽しそうだな。自分もやってみたいな』というイメージを膨らませていただきたい。それに自分たちでつくれば、内装業者に頼むより費用も安上がりですからね(笑)」
■店のスタッフ数は同業他社の3倍
―なるほど、自分たちでやれば顧客にDIYのアドバイスもできるし、経費削減にもなるわけですね。さっき入り口付近に巨大な噴水がありましたが、あれも自分たちでつくったんですか?
「いえ、あの巨大な噴水はイタリア製の売り物です。158万円の値札がついていますよね。でも実は、あれは売ろうと思って置いているわけじゃないんですよ。見たお客さんが『うわっ、158万円もするんだ!』と驚いてくれる(笑)。
買い物に新鮮な驚きやドキドキ感は必要でしょ? いつもの近所でのお買い物と同じじゃつまらない。せっかくハンズマンまで来たんだから、めいっぱい楽しんで、『また来たいな』と思って帰ってほしいんです」
―これほど膨大な商品を扱ったり、ディスプレイをつくったりでは、店のスタッフの仕事は大変そうですね。
「私は従業員の皆さんを使っているつもりはない。働いていただいているんです。銀行に勤めていた私が家業のハンズマンに戻って働き始めた頃、いきなりスタッフ70名規模の店長をさせてもらった。ホームセンター業界の素人だった私にとって、スタッフ全員が先生だったわけです。
当時、一番苦労したのはベテランスタッフとの人間関係ですね。私がよかれと思ってやったことが通じず、辞めていく人たちも出てくる。朝出社したら店に誰もいないという夢を何度見たことか……(笑)。もうノイローゼになりそうでしたが、こんな私に本当によくスタッフがついてきてくれました。感謝しかありませんよ」
―店内を歩いていると、ずいぶんスタッフがたくさんいるように感じますが……。
「1店舗当たりの従業員数は、同業他社の3倍近い約100人で、そのことに疑問を投げかける方もおられます。でも、お客さまからの疑問や期待に応えるハンズマンクオリティの仕事をするには、この人数は不可欠なんです。
お客さまとの間に信頼関係が築ければ、売り上げは絶対に伸びる。おかげさまで、しっかりと利益も出させていただいています。これはスタッフ全員がお客さまと正面から向き合ってがんばってくれたからこそ。人数が少なければ接客がお粗末になってしまう。人件費を削れば売り上げや利益が上がるとは、私には決して思えません」
***
午前9時からの取材の前は、早朝3時まで店舗改装の陣頭指揮を執っていたという大薗社長。
「そりゃ仕事は楽しいですよ。楽しくなけりゃDIYじゃないでしょ(笑)。店づくりにはやりたいこと、やらなきゃいけないことがいつも山積み。考える頭も、作業する手も止められません」と語る表情はエネルギッシュだ。
今も店舗の設計時には建築業者任せにせず、社長自ら模型を組み上げて修正を加えていく。子供の頃は父親がつくる木製の帆船模型を食い入るように見ていたそうだ。何もないところから自分でものをつくる楽しさの原体験は、そこにあるのかもしれない。
(取材・文/近兼拓史)
●大薗誠司(おおぞの・せいじ)
1969年生まれ、宮崎県出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、三和銀行に入行。95年に故郷に戻り、家業のハンズマンに入社。2006年に代表取締役社長に就任。ユニークな店舗づくりを推し進め、ホームセンター業界の風雲児として注目される
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