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元外交官・孫崎享氏が語るTPPの功罪「アメリカの言いなりでの受け入れは危険です」

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先の参院選でも自民党が圧勝、TPPへの参加はもはや不可避ともいえるなか、影響の大きい農業においても是非が問われている。反対の立場をとる元官僚評論家・孫崎享(まごさきうける)氏にその本質をズバリ聞いた。

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自民党の思惑でTPPが推進される=大企業の利益が最優先ということだ。TPPの項目は多岐にわたるが、農業に関していえば、アメリカ的な大規模農業だけが生き残り零細農家は消えていく可能性も高い。価格競争では勝負できず、消費者の立場ではありがたい気も?

「いや、値段が安くなるからよしというだけでは日本の社会システムが崩壊しかねません。多くの人が労働することで社会が安定している。経済効率だけがすべてではないはずなんですがね」

もはや日本の農業が生き残る道は、松阪牛や青森りんごのように高品質なブランドで差別化していくのみ? だが、さらに危惧されるのは原産地表示や遺伝子組み換え表示までされなくなる点だ。

「確かに価格競争で負けても付加価値があれば生き残っていける。ところがTPPではアメリカの意向でできるだけ無色となります。砂糖は砂糖、牛肉は牛肉と大まかな区別のみで排除されるのです」

それどころか、今の要望を言いなりのまま受け入れると不利益なことには訴訟すら起こされる。

「それでも原産地表示は安全のためにもやっていくしかありません。TPP参加が決まるまでに、支援団体をつくり原産地表示ができないことでの不都合をアピールするための準備も必要でしょう」

現状、TPPの内容を見る限り日本のメリットはほとんどなく、最大の目的はアメリカを喜ばせることだという。反対を唱えれば排除され大企業との泥沼の訴訟が待つ。そこで大きな役割を果たすメディア、国民の現状や認識はどこか、あの時代を思わせる……。

「昭和初期に活躍した映画監督、伊丹万作の著書『戦争責任者の問題』にこんな文章があります。多くの人がだまされていたと言っているが、誰がだましたのかわからない。みんながだまし、だまされるなかに入ってしまったのです、と」

今も変わらず、日本人が子供の頃から一番恐れるのが「いじめ」に遭うことだろう。周囲に合わせ時代の空気に流される風潮を繰り返す先には大いなる危惧がある。TPPでも問われていることだ。

「このままでは貧困格差が広がり、年収1億円と100万円という形に二極化していくでしょう。そのときにお金や組織から離れることで新しい道が開けてくるのだとも思いますが。中野孝次さんが書いた『清貧の思想』がひとつのあり方として目標ではないでしょうか?」

田舎に移住したり、自給自足を始めた若者の間では物々交換、労働交換、地域通貨などを活用し“お金のいらない国”に幸せを求める気づきもある。TPPによる二極化は、いまだ経済発展を目指しGDPを選ぶのか、ブータンのようにGNH(国民総幸福量)を選ぶのか、その分岐点ともいえる。

●孫崎 享(まごさき・うける)






1943年、旧満州国生まれ。東京大学法学部を中退し外務省に入省。海外の駐在員や大使を歴任。定年後に書いた『戦後史の正体』(創元社)、『アメリカに潰された政治家たち』(小学館)が話題となる 【関連記事】
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