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国際関係の中で「歴史認識」はどう位置づけられるか……小谷哲男氏の実に分かりやすい解説とともに考えてみる

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日本軍の侵略、従軍慰安婦、そして戦争責任……日本の国内では、いわゆる進歩派、もしくは左派による「自虐史観」と、保守派、もしくはタカ派による「自由主義史観」とが、どちらが正しいのかと騒ぎ立てられる。歴史認識論争というやつだ。だが、国と国との関係を考える場合、どちらの歴史認識が正しいのかは、ある意味でどうでもよくなる。

『ウェッジ・インフィニティ』というWebマガジンに、日本国際問題研究所の小谷哲男研究員が投稿した論考が興味深い。タイトルは、「歴史認識問題に揺れる日本 『過去』に負けず、『未来』で勝つ方法」。国際関係の中で、歴史認識がどう位置付けられているのかを、大変分かりやすく解説している。

安倍晋三氏は、昨年末に首相となってから、ここぞとばかりにタカ派に近い主張を展開していた。また、 橋下徹大阪市長は、従軍慰安婦に関する持論を展開。しかし、いずれも「海外、特にアメリカで高まる懸念の声」などにより、発言の主旨を軌道修正せざるを得なくなったことを、小谷氏は確認する。

その上で、「日本の政治家は、歴史を純粋に歴史として扱い、事実関係について争おうとする傾向がある」が、「国際政治において歴史はあくまで政治の延長」であり、「歴史は事実を伝えるためではなく、あくまで政治的手段として使われる」と述べている。そして、「日本の政治家が歴史を政治的手段として認識していないことが、歴史認識をめぐる外交問題が繰り返される大きな理由」だと主張する。

さらに、「歴史は、特に敗戦国の行動に制約を与える上で便利な道具」であることから、「残念ながら、国際政治を舞台とする歴史解釈というゲームで、日本が勝つことはできない」として、ならば「日本の政治家は勝てない喧嘩に挑むべきではない」と小谷氏は提案している。「第二次世界大戦の解釈や細かい事実関係の修正は研究者が行う。歴史は歴史家に任せればよい」とも述べているが、筆者もその通りだと思う。

では、「歴史は歴史家に任せ」るのなら、政治家は何をすべきか。小谷氏は、ふたつの提案をする。ひとつめは、「歴史認識という国際ゲームで負けないこと」で、「このゲームで日本が勝つことはないが、負けないようにすることは可能だ」と述べる。

具体的には、「国際政治の舞台では、日本から国際世論に真実を伝えることよりも、揚げ足を取られて日本の否定的なイメージを作り上げられないようにする方が重要である。この「村山談話」と「河野談話」を踏襲すれば歴史ゲームで負けることはない。日本の政治家は、これらの政治文書の細かい事実関係にこだわるべきではなく、その政治的な価値を受け入れるべき」と小谷氏。

ふたつめの提案は、「日本が勝てるゲームに集中すること」で、「過去を振り返るのではなく、アジアの未来を日本そして地域にとってより良いものにするためのゲームで勝負するべき」と言うもの。

アジアにおける「公平・公正で自由な経済・貿易制度をめぐるゲーム」で、「公正なルール作りを主導する」。また、同じくアジアの「安全保障のゲームにおいて、国際法に基づいた紛争の平和的解決を推進する」。よって、「日本の政治家が取り組まなければならないのは、まさにこのアジアの未来を左右する問題」であって、「過去を振り返るより、未来を作り上げることが日本の使命である」と小谷氏は結論付ける。

小谷氏の議論を強引に要約してみると、こうなる。すなわち、日本の政治家に求められているのは、自らの主義主張に基づく歴史認識を開陳し、海外から文句を言われることではない。国内での歴史認識論争とは別物として、海外向けに文句が出ないような歴史認識をきっちりと発信すべきである。そして、アジア諸国の先頭に立ち、経済や安全保障に関する諸問題を解決していくべきではないか。

繰り返すが、国と国との関係を考える場合、日本国内での歴史認識論争は、ある意味でどうでもよくなる。政治家が、自らが信じる歴史認識を公の場で発信すると、国際政治の上ではマイナスに作用することが多い。そのことを、安倍首相や橋下市長の一件で理解した読者も多いことであろう。大切なことは、小谷氏の言うように「歴史を政治的手段として認識」した上で、他国から反発を招かないような歴史認識を準備し、発信していくことだと筆者は考える。

ここでは小谷氏の論考のエッセンスだけしか伝えられなかった。ほかにも重要な論点がいくつも含まれる論考なので、時間のある読者は、ぜひ以下のリンクから全文をお読みいただければと思う。

(谷川 茂)

※写真は『ウェッジ・インフィニティ』サイトより

【関連情報】
「歴史認識問題に揺れる日本 『過去』に負けず、『未来』で勝つ方法」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2839?page=1

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