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洞窟絵にはどこか現実離れした、この世のものとも思えぬサイケデリックな躍動感がありますが、それもそのはず...ドラッグでトリップして見える絵そっくりなことが東大の調べで明らかになりました。
東京大学池上高志教授と池上ラボで去年までポスドクだったトム・フローズ(Tom Froese)さん(現メキシコ国立自治大学研究員)、現ポスドクのアレクサンダー・ウッドワード(Alexander Woodward)さんがAdaptive Behaviorに6月に発表した論文によりますと、4万年を超える歳月の間に残された壁画をつぶさに調べてゆくと、そこに看過できないパターンがあるのだそうな。
ぐるぐる巻きのラビリンスのような模様。これが何千マイルも離れた場所で多発生的に残ってるのは単なる偶然ではなく、現代人が麻薬の幻覚症状の実験で見る模様そのものだったのです。原始人の共通点は想像以上というか、みんなハイになるのが好きだったんですね。
原始文明における麻薬使用に関する既存の調査では、精神活性作用をもつ様々な植物を大量摂取すると脳内に化学反応が起こり、脳の細胞構造によく似た「神経パターン(neural patterns)」が見えることがわかっています。これが俗に言う「チューリング不安定性(Turing instabilities、拡散に誘導された不安定性)」で、例えばこんなかたち。
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...これが洞窟絵そっくりんこなんざますよ。
研究論文では、たぶん麻薬とかでスピリチュアルな境地に至る儀式に参加していたのではないか、とあります。ドラッグでハイになったときの絵は普通の絵とは別格に扱われた。そして時と場所を超えて何度も繰り返し描かれた。「変性意識状態(ASC:altered states of consciousness)でこの種の視覚パターンが見えると、人はそれをあたかも重要な意味を帯びてるもののように体で直に感じる。つまり何か意味あるものとして直に受け止める、だから儀式で使うモチーフとして突出したのではないか」というんですね。
幻覚誘引ドラッグが初期洞窟絵と無関係じゃなさそうだという話は今回が初めてではありませんが、ここまで科学的に厳密なのは初めて。
2011年にも「6000年前のスペインの洞窟絵はマジックマッシュルームの幻覚そのものだ」という科学論文が発表になってちょっとした話題になりました。サハラ砂漠の岩絵からも同様の仮説が導き出されており、例えばタッシリの岩絵にはキノコを持って走る人たちや全身にキノコを生やした化身の姿も残っています。
今回の研究はしかし、太古の岩絵を既存の幻覚症状の研究に結びつけるだけじゃなく、そういうドラッグ摂取で活性化される脳の部位に幻覚を結びつけてマッピングしているところがポイントで、それが科学的と言われる所以です。発見のベースがニューロ・フェノメノロジー(neurophenomenology、神経現象学)の基礎概念なのですね。ニューロ・フェノメノロジーとは脳の働きと人の体験の相関関係の学問のことです。1万年前の人の脳内まではスキャンできないけど、1万年前の人の頭から出た像と現代人が幻覚状態で描くアートの類似点を探すことはできるというわけですね。
いんや~洞窟絵は実に多くのことを教えてくれますね。
[Adaptive Behavior via Daily Mail]
ADAM CLARK ESTES(米版/satomi)
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