みなさんの職場にこんな上司はいないでしょうか? 出勤しただけで、オフィスの空気が引き締まる上司。別に仕事のことについて小言を言ってるわけではないのに、無言の圧力・威圧感・存在感を醸し出す人です。
上司でも同僚でも部下でも、そのポジションを問いません。そのような人が周りにいるだけで、空気が張りつめたり、あるいは、場が明るくなったりするものです。場の空気を作る人は、ある種の説得力を持ち合わせているのでしょう。
場の空気を作ることがもっとも求められる職業のひとつに、役者・俳優・女優があると筆者は考えます。たとえば、映画の大スクリーンに登場するだけで、観客の視線を一気にさらう役者は、言わずもがな「スンゲー役者」です。彼は、ひとことも喋らずとも、スクリーンを自分のものにするのです。多くを語らずとも、その姿・表情・息づかいがすべてを表現し、役者に説得力を帯びるのです。
この説得力をまったく感じない俳優のドラマが始まりました。TBS系列で放送中の「名もなき毒」です。主演の小泉孝太郎に、筆者はまったく説得力を感じないのです。今回は、このドラマの初回レビューを僭越ながら記します。
台詞に説得力を持たない「言葉」のドラマの主演俳優
まずは、フェアにこのドラマの素晴らしい点を冒頭に述べたことに即して紹介しておきます。室井滋・平幹二朗・本田博太郎・木野花。「名もなき毒」で脇を固める役者のみなさんは、尋常ではない説得力をお持ちです。何も語らずとも「嫌味」を醸し出す室井滋。妖怪にも見える表情の平幹二朗。どう考えても怪しさと危うさを漂わせる本田博太郎。実にリアルな性格の悪さを表現する木野花。多くを語らずとも、みなさんの身体が語りかける説得力に画面を見ていた筆者はひれ伏すほどでした。
一方、主演の小泉孝太郎はどうでしょう。ドラマの語りも勤める小泉孝太郎は、とにかく台詞が大量にあります。別に筆者は、台詞が多いことを非難するつもりはさらさらありません。問題にしているのは、彼の台詞がすべて上滑りして聞こえてしまうという点です。あれだけ言葉を紡いでいるのにもかかわらず、一言たりとて説得力を持ち合わせていないのです。
くしくも、劇中には登場人物の口元をアップで映すシーンが数多く出てきます。登場人物の悪意なき陰口・悪口を表現するカットです。ドラマのタイトル通り“名もなき毒”を登場人物たちが吐いている象徴的なカットになっています。
つまり、このドラマでは登場人物の「言葉」がとても意味を持っているのです。また、「知らず知らずのうちに“名もなき毒”を自分も吐いているかもしれない」という思いを、視聴者に問いかけています。
そんな「言葉」のドラマとも言える作品に主演している役者が、自身の台詞にまったくと言っていいほど説得力を持たせられないのは、大問題ではないでしょうか。語らずも多くのことを表現する名バイプレーヤーがいることで、その台詞の上滑りは視聴者にダイレクトに伝わってしまうのです。
“薬”にも“毒”にもならない役者
これまでは、主演の小泉孝太郎さんに対して、非常に厳しいことを記しました。筆者は、別段小泉さんのことが嫌いではないのです。むしろ、役者としては非常に魅力的なキャラクター・バックボーンを持っているので、彼が気になって仕方がありません。
みなさんご存知の通り、彼は元総理、小泉純一郎の息子。幼少期から一般人では絶対に経験できない出来事に出会いながら、人生を歩んで来たはずです。この唯一無二と言って良いほど、稀少なバックボーンを役者としての能力に昇華すれば、怪優になること間違いありません。
先述のバイプレーヤーたちは、みなさん“怪優”です。彼らにしかできない芝居を観客や視聴者として見ることが、筆者は楽しみで楽しみでなりません。「平幹二朗にはどんなバックボーンがあるのだろう?」と思わずにはいられない表情を彼らは見せてくれます。平幹二朗の顔、喋り方、髪型、顔のシミひとつとっても、そのすべてのアクが強すぎます。
端正な顔立ち、爽やかな笑顔の俳優が大活躍のテレビドラマでは、このアクの強さが求められているのではないでしょうか。タイトルになぞらえて言うと、平幹二朗はまさしく“毒々しい“役者です。
小泉孝太郎にその毒々しさを期待しているのでは決してありません。しかし、自身の貴重なバックボーンを芝居にフィードバックする際、今の彼は「元総理の息子だけれどもとても純粋で素直な青年」としか出力できていません。これでは、あまりにももったいないです。純粋さや素直さは、平幹二朗を前にするともろく崩れてしまいます。また、視聴者にとって、小泉孝太郎の純粋さ・素直さは、“薬”にも“毒”にもならないのです。
小泉孝太郎ならではのアクの強さを視聴者として感じられる時を、筆者は待ち望んでいます。彼は、この夏、ドラマの撮影中にまたひとつ年を重ね、35歳の役者になります。薬にも毒にもならない純粋さを売りにするには、あまりにも年を重ねすぎました。役者として新境地へ“孝太郎がゆく”ことを楽しみにしています。
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上司でも同僚でも部下でも、そのポジションを問いません。そのような人が周りにいるだけで、空気が張りつめたり、あるいは、場が明るくなったりするものです。場の空気を作る人は、ある種の説得力を持ち合わせているのでしょう。
場の空気を作ることがもっとも求められる職業のひとつに、役者・俳優・女優があると筆者は考えます。たとえば、映画の大スクリーンに登場するだけで、観客の視線を一気にさらう役者は、言わずもがな「スンゲー役者」です。彼は、ひとことも喋らずとも、スクリーンを自分のものにするのです。多くを語らずとも、その姿・表情・息づかいがすべてを表現し、役者に説得力を帯びるのです。
この説得力をまったく感じない俳優のドラマが始まりました。TBS系列で放送中の「名もなき毒」です。主演の小泉孝太郎に、筆者はまったく説得力を感じないのです。今回は、このドラマの初回レビューを僭越ながら記します。
台詞に説得力を持たない「言葉」のドラマの主演俳優
まずは、フェアにこのドラマの素晴らしい点を冒頭に述べたことに即して紹介しておきます。室井滋・平幹二朗・本田博太郎・木野花。「名もなき毒」で脇を固める役者のみなさんは、尋常ではない説得力をお持ちです。何も語らずとも「嫌味」を醸し出す室井滋。妖怪にも見える表情の平幹二朗。どう考えても怪しさと危うさを漂わせる本田博太郎。実にリアルな性格の悪さを表現する木野花。多くを語らずとも、みなさんの身体が語りかける説得力に画面を見ていた筆者はひれ伏すほどでした。
一方、主演の小泉孝太郎はどうでしょう。ドラマの語りも勤める小泉孝太郎は、とにかく台詞が大量にあります。別に筆者は、台詞が多いことを非難するつもりはさらさらありません。問題にしているのは、彼の台詞がすべて上滑りして聞こえてしまうという点です。あれだけ言葉を紡いでいるのにもかかわらず、一言たりとて説得力を持ち合わせていないのです。
くしくも、劇中には登場人物の口元をアップで映すシーンが数多く出てきます。登場人物の悪意なき陰口・悪口を表現するカットです。ドラマのタイトル通り“名もなき毒”を登場人物たちが吐いている象徴的なカットになっています。
つまり、このドラマでは登場人物の「言葉」がとても意味を持っているのです。また、「知らず知らずのうちに“名もなき毒”を自分も吐いているかもしれない」という思いを、視聴者に問いかけています。
そんな「言葉」のドラマとも言える作品に主演している役者が、自身の台詞にまったくと言っていいほど説得力を持たせられないのは、大問題ではないでしょうか。語らずも多くのことを表現する名バイプレーヤーがいることで、その台詞の上滑りは視聴者にダイレクトに伝わってしまうのです。
“薬”にも“毒”にもならない役者
これまでは、主演の小泉孝太郎さんに対して、非常に厳しいことを記しました。筆者は、別段小泉さんのことが嫌いではないのです。むしろ、役者としては非常に魅力的なキャラクター・バックボーンを持っているので、彼が気になって仕方がありません。
みなさんご存知の通り、彼は元総理、小泉純一郎の息子。幼少期から一般人では絶対に経験できない出来事に出会いながら、人生を歩んで来たはずです。この唯一無二と言って良いほど、稀少なバックボーンを役者としての能力に昇華すれば、怪優になること間違いありません。
先述のバイプレーヤーたちは、みなさん“怪優”です。彼らにしかできない芝居を観客や視聴者として見ることが、筆者は楽しみで楽しみでなりません。「平幹二朗にはどんなバックボーンがあるのだろう?」と思わずにはいられない表情を彼らは見せてくれます。平幹二朗の顔、喋り方、髪型、顔のシミひとつとっても、そのすべてのアクが強すぎます。
端正な顔立ち、爽やかな笑顔の俳優が大活躍のテレビドラマでは、このアクの強さが求められているのではないでしょうか。タイトルになぞらえて言うと、平幹二朗はまさしく“毒々しい“役者です。
小泉孝太郎にその毒々しさを期待しているのでは決してありません。しかし、自身の貴重なバックボーンを芝居にフィードバックする際、今の彼は「元総理の息子だけれどもとても純粋で素直な青年」としか出力できていません。これでは、あまりにももったいないです。純粋さや素直さは、平幹二朗を前にするともろく崩れてしまいます。また、視聴者にとって、小泉孝太郎の純粋さ・素直さは、“薬”にも“毒”にもならないのです。
小泉孝太郎ならではのアクの強さを視聴者として感じられる時を、筆者は待ち望んでいます。彼は、この夏、ドラマの撮影中にまたひとつ年を重ね、35歳の役者になります。薬にも毒にもならない純粋さを売りにするには、あまりにも年を重ねすぎました。役者として新境地へ“孝太郎がゆく”ことを楽しみにしています。
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