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加藤嘉一『「未完」だからこそ、アメリカは超大国として君臨しているんです!』

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日本では先進的で華やかなイメージのあるアメリカ。しかし実際に住んでみると、違った一面が見えてきます。アメリカの強さのキーワード、それは「未完」です。

アメリカ合衆国は、なぜ国際社会において“超大国”として君臨し続けているのか? ぼくは昨秋からアメリカに拠点を置き、実際に住んでみて、ようやくその理由が少しわかったような気がします。

結論から言えば、アメリカ最大のストロングポイントは政治力でも経済力でも軍事力でも文化力でもない。意外に思われるかもしれませんが、いうなれば「未完力」こそが、アメリカをアメリカたらしめているのではないでしょうか。

民主主義型アメリカ社会の現実を知るため、昨秋以来ヒマさえあればボストンを飛び出し、各州・各地へ足を運んできました。

南部フロリダ半島のマイアミでは、手違いで女性専用のドミトリー(ベッドのみの相部屋)を予約していたことが現地到着後に判明しました。近隣のホテルにも空き室はない。時間は23時。覚悟を決め、野宿することにしました。中国にいた時代から野宿には慣れていますし、幸い、いつでもどこでも眠れる体質なので気にはしませんでした。波の音をBGMに、海岸線のフカフカな砂の上で深い眠りにつきました。

日の出とともに起き、朝食を取りに近くのレストランへ向かいます。席に着き注文しようとしたところ、なんと英語が通じません。マイアミにはヒスパニック系の住民が多いことは知っていましたが、いくらなんでも公用語がまったく通用しないとは予想外でした。

一方、中部のシカゴは黒人が多い地域でした。街の景観は素晴らしく、エンターテインメント文化の進んだ大都市ですが、ブロックひとつ隔てただけで一気に治安が悪くなるような場所もある。シカゴ大学がある地域では、オバマ大統領らを輩出したという自信に満ち溢れた黒人パワーに圧倒され、震えました。

政府組織や大学が多い“知的中枢”の東部、ロサンゼルスなど明るくのほほんとした西部、ヒスパニック系が住民の多くを占める南部、黒人文化が根づく中部。それぞれが強烈なエネルギーを発するアメリカは、「中心のない国家」という一面を持っています。

ほとんどのアメリカ国民は自国を先進国だと信じて疑っていないでしょうが、ぼくの実感では空港など交通インフラの充実度は中国の10分の1以下。社会の安定性は日本の100分の1以下。行政サービスも非効率的。誤解を恐れずにいえば、アメリカとは「世界で最も進んだ開発途上国」ではないでしょうか。

開発途上とは、言い換えれば「ポテンシャルに富んでいる」ということであり、人々を前向きに、エネルギッシュにさせるということ。前回の本コラムで触れた銃問題しかり、アメリカ社会には問題点も多々ありますが、人々はそれを理解した上で、あまたある短所を差し引いてもなお魅力的な「自由」を享受すべく努めている。

マイアミの街で、キューバ出身の女性と知り合いました。アメリカとキューバには国交がないので、おそらくグレーな手段で入国したのでしょう。アメリカにどうやって来たのか尋ねると、彼女は語気を強めてこう言いました。

「手段は関係ない。この土地にたどりつきさえすれば、私たちはアメリカ人になれるのよ」

アメリカに住んでいて、“御上(おかみ)”の存在を感じることは非常に少ない。ここでは政府が弱者であり、国民が強者。支配されている、逆らえない、というような感覚は決してありません。日本や中国では、どんな局面でも頭のどこかで「抑えつけられている」と感じていたぼくにとっては、新鮮極まりないことです。

完璧でないがゆえの懐(ふところ)の広さを持つアメリカに対し、完璧を求めることで逆に可能性を狭めているように見える日本。両国が対等に渡り合える日は来るのか――逆に教えて!!

今週のひと言







「未完」だからこそ、アメリカは







超大国として君臨しているんです!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)







日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中! 【関連記事】
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