中国のインパクトのある“一手”によって、東シナ海周辺空域の緊張が高まっています。日本としてはどう対応すべきでしょうか?
東シナ海において中国が「防空識別圏(ADIZ)」を設定したことが国際社会で波紋を呼んでいます。
このニュースを知ったとき、ぼくはボストンにいました。ハーバード大学で安全保障を研究している同僚は「これはすごいアクションだ」と驚いていましたが、中国を長期的にウオッチしている立場からすると“想定の範囲内”です。
昨年9月11日に日本が尖閣諸島を国有化して以来、中国が一貫して行なっている政策―海や空からジャブを打ち続け、「尖閣には領土問題が存在する」という主張を国際社会にアピールする政策の一部にすぎない。
ある自衛隊の関係者はこう分析していました。
「とんでもない暴挙であることは間違いないが、『いつかやってくるだろう』という予測はあった。アメリカがすぐに非難声明を出し、米空軍の爆撃機を飛行させたのは、中国の行動が対日本にとどまらず、アメリカの東シナ海での行動を制限するものだからだ。
日本としては今後、どこが非難すべきポイントなのかをしっかり内外に説明すること。そしてアメリカの力を“テコ”にし、足並みをそろえて世界にアピールすること。ここがボトムライン(最低限必要な部分)になる」
まったく同感です。中国の行動は、この地域における「ステータス・クオ(現状維持)」を覆す挑発行為であり、日本、オーストラリア、韓国、台湾、そしてアメリカにとって看過できない話だからです。
11月に北京で開かれた三中全会(中国共産党の重要な政治会議)を見ても、習近平(しゅうきんぺい)国家主席が外交・安全保障に関しては“ハードライナー”(強硬路線派)で、政策決定過程を自らの手にグリップしておきたいタイプであることは間違いない。
今回の防空識別圏設定も習主席の主導によるものですが、アメリカなど各国の反応を見て、「少々やりすぎた」と思っているかもしれません。
ただ、日米の爆撃機、戦闘機の飛行に対し無反応だったかと思えば、自軍機のスクランブル(緊急発進)を一方的に主張してみせたり(日本政府は否定)と、その政策と意図はまだまだ不透明。
いずれにせよ、姿勢を軟化させることはあっても、いまさら後には引かないでしょう。今後も勢力範囲を拡大すべくジャブを盛んに打ち続け、それに対して日米も打ち返すといった攻防がしばらくは繰り広げられるはずです。
ところで、これを機にアメリカが尖閣問題においても日本に肩入れしてくれるのではないか……という観測については、過度に期待すべきでないとぼくは考えます。
「実効支配しているのは日本であり、その現状を覆すような動きには断じて反対する。ただし、主権の所在に関してはノータッチを貫く」
こうしたアメリカのプラグマティズムに基づいたスタンスは、防空識別圏が設定されたからといって変わることはないでしょう。
ぼくが懸念しているのは、現在進行中の日中韓3国間でのFTA(自由貿易協定)交渉など、多国間経済交流への影響です。各国におけるナショナリズムの高まりもあって、近年は安保と経済がリンクする傾向にあり、どちらかで摩擦が起きると共倒れしかねない状況に陥ってしまいがち。安保は安保、経済は経済と、ここは明確に割り切って処理していくべきです。
「尖閣という領土問題の存在」を世界にアピールしたい中国に対し、日本が今やれることは、アメリカの力を最大限に使って「今回の中国の行動がいかに重大なルール違反か」という点を明確に国際世論に訴えること。
一方で、この問題が経済方面に波及しないよう、政治がリーダーシップを発揮すること。こうした“二元外交”なくして情勢をコントロールし、激動の時代を生き抜けるというなら、その理由を逆に教えて!!
●加藤嘉一(かとう・よしかず)
日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も始動! 【関連記事】
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東シナ海において中国が「防空識別圏(ADIZ)」を設定したことが国際社会で波紋を呼んでいます。
このニュースを知ったとき、ぼくはボストンにいました。ハーバード大学で安全保障を研究している同僚は「これはすごいアクションだ」と驚いていましたが、中国を長期的にウオッチしている立場からすると“想定の範囲内”です。
昨年9月11日に日本が尖閣諸島を国有化して以来、中国が一貫して行なっている政策―海や空からジャブを打ち続け、「尖閣には領土問題が存在する」という主張を国際社会にアピールする政策の一部にすぎない。
ある自衛隊の関係者はこう分析していました。
「とんでもない暴挙であることは間違いないが、『いつかやってくるだろう』という予測はあった。アメリカがすぐに非難声明を出し、米空軍の爆撃機を飛行させたのは、中国の行動が対日本にとどまらず、アメリカの東シナ海での行動を制限するものだからだ。
日本としては今後、どこが非難すべきポイントなのかをしっかり内外に説明すること。そしてアメリカの力を“テコ”にし、足並みをそろえて世界にアピールすること。ここがボトムライン(最低限必要な部分)になる」
まったく同感です。中国の行動は、この地域における「ステータス・クオ(現状維持)」を覆す挑発行為であり、日本、オーストラリア、韓国、台湾、そしてアメリカにとって看過できない話だからです。
11月に北京で開かれた三中全会(中国共産党の重要な政治会議)を見ても、習近平(しゅうきんぺい)国家主席が外交・安全保障に関しては“ハードライナー”(強硬路線派)で、政策決定過程を自らの手にグリップしておきたいタイプであることは間違いない。
今回の防空識別圏設定も習主席の主導によるものですが、アメリカなど各国の反応を見て、「少々やりすぎた」と思っているかもしれません。
ただ、日米の爆撃機、戦闘機の飛行に対し無反応だったかと思えば、自軍機のスクランブル(緊急発進)を一方的に主張してみせたり(日本政府は否定)と、その政策と意図はまだまだ不透明。
いずれにせよ、姿勢を軟化させることはあっても、いまさら後には引かないでしょう。今後も勢力範囲を拡大すべくジャブを盛んに打ち続け、それに対して日米も打ち返すといった攻防がしばらくは繰り広げられるはずです。
ところで、これを機にアメリカが尖閣問題においても日本に肩入れしてくれるのではないか……という観測については、過度に期待すべきでないとぼくは考えます。
「実効支配しているのは日本であり、その現状を覆すような動きには断じて反対する。ただし、主権の所在に関してはノータッチを貫く」
こうしたアメリカのプラグマティズムに基づいたスタンスは、防空識別圏が設定されたからといって変わることはないでしょう。
ぼくが懸念しているのは、現在進行中の日中韓3国間でのFTA(自由貿易協定)交渉など、多国間経済交流への影響です。各国におけるナショナリズムの高まりもあって、近年は安保と経済がリンクする傾向にあり、どちらかで摩擦が起きると共倒れしかねない状況に陥ってしまいがち。安保は安保、経済は経済と、ここは明確に割り切って処理していくべきです。
「尖閣という領土問題の存在」を世界にアピールしたい中国に対し、日本が今やれることは、アメリカの力を最大限に使って「今回の中国の行動がいかに重大なルール違反か」という点を明確に国際世論に訴えること。
一方で、この問題が経済方面に波及しないよう、政治がリーダーシップを発揮すること。こうした“二元外交”なくして情勢をコントロールし、激動の時代を生き抜けるというなら、その理由を逆に教えて!!
●加藤嘉一(かとう・よしかず)
日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考えるプロジェクト「加藤嘉一中国研究会」も始動! 【関連記事】
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