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加藤嘉一「『民主主義』と『愛国心』という、一見相反する要素がアメリカでは両立しています」

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4月のボストンテロ事件は、アメリカの“本質”を明らかにしました。ひとつは市民社会の平和ボケ。もうひとつは仮想敵の存在を前提とする「愛国心」です。

ボストンマラソンの競技中に発生した爆弾テロ事件から約2ヵ月がたちました。

事件現場はぼくの住居から目と鼻の先でしたが、4月15日午後の爆弾テロ発生時刻は台湾出張へ向かう機上にいました。そして、帰ってきたのは犯人が逮捕され、戒厳令が解かれる直前。つまり、最も緊迫した渦中にはいませんでした。そのような立場で、あくまでひとりの在米日本人として、あの事件から感じたことを書きたいと思います。

ボストンの街は事件の前と後で変わりました。「ONE BOSTON」「BOSTON STRONG」といったメッセージがあちこちに掲げられ、悲劇を忘れないために人々が自発的に集会に参加するなど、市内の連帯感が高まりました。9・11以来の本格的なテロ事件が、ボストンマラソンという歴史ある大会の現場で起こったことは、アメリカ社会にとっても相当ショックだったはずです。

しかし冷静に考えてみると、厳しい言い方かもしれませんが、ボストンが“平和ボケ”していたという見方もできると思います。

首都で政治の中心地であるワシントンD .C .と政策的に密接につながっていて、伝統的に富裕層が多く、かつハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などアメリカの将来を担う人材があふれる“知的中枢”でもある。平時は全米で一、二を争うほど治安がいい。ぼくが所属しているハーバード大学ケネディスクールも実質的には出入り自由で、要人来訪時など以外は、警備などあってないようなものです。昨年秋にここへ来た当初から、その危機感のなさは少し気になっていました。

当然、テロ事件を機に各所の警備体制は見直され、至る所に警察官が立つようになりました。レストランでも必要以上にIDの提示を求められます。これまで平和を享受してきたボストン市民は、新たな時代に否応なく突入したことを日々実感しているでしょう。







もうひとつ気になったのは、アメリカ特有の“愛国心”です。

オサマ・ビンラディンを米軍が殺害した際と同様に、今回の爆弾テロ実行犯が捕まったとき、多くの国民は「U・S・A!」と声高にコールして高揚感に浸りました。中国や日本では見られない光景でしょう。

根底にあるのは、国家としての歴史が短く、“伝統”という説得力を持たないがゆえの強引な愛国ムードだと思います。とにかく「敵」と「味方」という二元論で物事を語りたがる。社会の秩序を乱す者は敵だ。テロは敵だ。北朝鮮、シリア、イランは敵だ。自由民主主義を否定する者は敵だ。自分たちを脅かす敵を提示することで、アメリカは国民の連帯感や結束力を促している。

「民主主義」と「愛国心」という、一見相反する要素がこの国では両立しています。

民主主義では言論の自由が守られ、誰もが政府を批判することができます。メディアは政府に文句を言ってばかりですから、本来ならば国民の国への不満も高まるはずです。しかし、アメリカという国は常に仮想敵国をつくり、それを抑止力にしている。愛国心と民主主義がここまで鮮明に両立された国を、ぼくはほかに知りません。

爆弾テロ実行犯が逮捕されると、ハーバード大学ではアメリカ国民ではない留学生までもが「USAコール」をしていました。民主主義が担保された、開かれた愛国心に共感していた。これが移民大国アメリカのパワーであり魅力なのでしょう。しかし一方で、アメリカは世界中で一番嫌われている国家のひとつでもある。極めて特殊な存在です。

●今週のひと言







「民主主義」と「愛国心」の両立。







やはりアメリカは特殊な国です!















●加藤嘉一(かとうよしかず)








日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中! 【関連記事】
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