弁護士は質問上手です。法廷でも、法律相談でもうまく質問します。弁護士の石井琢磨さん著書「プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法」より、質問で意図した答えへ誘導する3つのポイントを紹介します。
1. 言葉選び
「言葉選び」は大切です。質問する際に、目的に沿った言葉を選びましょう。たとえば、刑事事件になるような問題を起こしてしまい、相手に許してもらいたいとします。
「話し合いで解決できませんか」と「刑事告訴は勘弁してもらえませんか」と言うのでは、効果が違います。相手の頭に浮かばせるのが「話し合い」という言葉か、「刑事告訴」という言葉かにより、その後の相手の行動に影響が出ます。細かい言葉の積み重ねが行動に影響します。
刑事事件で調書は警察が文案をつくります。加害者の調書では自分のことを「オレ」と書かせ、被害者の調書では「私」と書かせることが多いです。
実際に本人に会ってみると、どう考えても、自分のことをそう呼ばないキャラだと驚くことがあります。裁判官への印象付のために、加害者は「オレ」と少しだけ悪っぽく、被害者は「私」と誠実そうに書いているのです。
2. 質問の前提
次に意識すべきは、「質問の前提」です。ある事実を前提に質問をすることがありますが、この前提事実が間違っている質問があります。法廷では、誤導尋問と呼ばれ禁止されます。それだけ誘導効果が高いからです。
セールスマンがよく「金の壺と銀の壺、どちらを購入なさいますか」と言ったりします。買うとも言っていないのに、買うことを前提に質問しているのです。人は、質問されると思考してしまいます。誤導とわかっても、一瞬、金と銀のどちらが良いだろうか、と考えてしまうのです。
3. 一貫性を意識する
「一貫性」も大切です。人は一貫性を保とうとします。過去の言動と同じように振る舞います。質問によって、この一貫性を使い、誘導されることがあります。裁判で証言する場合、一貫性がないと信用されなくなります。弁護士はこの一貫性を意識して相手方証人を有利な方向に誘導しようとします。
たとえば夫婦間の裁判で、相手方の妻に対し「夫のフィギュアコレクションを嫌っていなかった」と認めさせたいとします。
弁護士「8月頃までは、夫婦の会話はあったということですよね」
妻 「そうですね、ありました」
弁護士「先ほどの証言では、夫の帰りが遅いことについては、夫に対して不満を言っていたということでしたね」
妻 「ええ、そうです」
弁護士「夫の収入が少ない点の不満も、夫に伝えていたのですよね」
妻 「はい」
弁護士「夫がフィギュアを集めていたのは、結婚前からご存知でしたね」
妻 「はい」
弁護士「夫がフィギュアを集めているのを知っていて結婚したわけですよね」
妻 「まあ、そうです」
弁護士「先ほど話があったように、夫婦の会話の中で、あなたは不満があれば、夫に伝えていたのですよね」
妻 「ええ、まあ」
弁護士「では、あなたは夫に対して、ハッキリとフィギュアはイヤだと伝えましたか」
妻 「いえ、ハッキリとは…」
弁護士「だとすると、フィギュアをそこまで嫌っていなかったのではないですか」
妻 「まあ…そうですね」
客観的な事実ではなく、当時の意思や感情などについての証言は、質問に誘導されてしまうのです。妻は、
「不満があれば伝えていた」
「フィギュアがイヤだと伝えていなかった」
という事実を認めたことで、一貫性を保とうとし、「フィギュアが嫌だった」とは言いにくい状況に追い込まれているのです。
質問を行動につなげるには、一貫性の法則を使い、目的に結びつく価値観、相手の規範、状況を事前に発言させるのが効果的です。
質問で答えをうまく誘導するには今回の3つのポイントをおさえましょう。心理戦をうまく進めるコツをもっと知りたい人は、「プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法」を読んでみてはいかがでしょうか?
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「言葉選び」は大切です。質問する際に、目的に沿った言葉を選びましょう。たとえば、刑事事件になるような問題を起こしてしまい、相手に許してもらいたいとします。
「話し合いで解決できませんか」と「刑事告訴は勘弁してもらえませんか」と言うのでは、効果が違います。相手の頭に浮かばせるのが「話し合い」という言葉か、「刑事告訴」という言葉かにより、その後の相手の行動に影響が出ます。細かい言葉の積み重ねが行動に影響します。
刑事事件で調書は警察が文案をつくります。加害者の調書では自分のことを「オレ」と書かせ、被害者の調書では「私」と書かせることが多いです。
実際に本人に会ってみると、どう考えても、自分のことをそう呼ばないキャラだと驚くことがあります。裁判官への印象付のために、加害者は「オレ」と少しだけ悪っぽく、被害者は「私」と誠実そうに書いているのです。
2. 質問の前提
次に意識すべきは、「質問の前提」です。ある事実を前提に質問をすることがありますが、この前提事実が間違っている質問があります。法廷では、誤導尋問と呼ばれ禁止されます。それだけ誘導効果が高いからです。
セールスマンがよく「金の壺と銀の壺、どちらを購入なさいますか」と言ったりします。買うとも言っていないのに、買うことを前提に質問しているのです。人は、質問されると思考してしまいます。誤導とわかっても、一瞬、金と銀のどちらが良いだろうか、と考えてしまうのです。
3. 一貫性を意識する
「一貫性」も大切です。人は一貫性を保とうとします。過去の言動と同じように振る舞います。質問によって、この一貫性を使い、誘導されることがあります。裁判で証言する場合、一貫性がないと信用されなくなります。弁護士はこの一貫性を意識して相手方証人を有利な方向に誘導しようとします。
たとえば夫婦間の裁判で、相手方の妻に対し「夫のフィギュアコレクションを嫌っていなかった」と認めさせたいとします。
弁護士「8月頃までは、夫婦の会話はあったということですよね」
妻 「そうですね、ありました」
弁護士「先ほどの証言では、夫の帰りが遅いことについては、夫に対して不満を言っていたということでしたね」
妻 「ええ、そうです」
弁護士「夫の収入が少ない点の不満も、夫に伝えていたのですよね」
妻 「はい」
弁護士「夫がフィギュアを集めていたのは、結婚前からご存知でしたね」
妻 「はい」
弁護士「夫がフィギュアを集めているのを知っていて結婚したわけですよね」
妻 「まあ、そうです」
弁護士「先ほど話があったように、夫婦の会話の中で、あなたは不満があれば、夫に伝えていたのですよね」
妻 「ええ、まあ」
弁護士「では、あなたは夫に対して、ハッキリとフィギュアはイヤだと伝えましたか」
妻 「いえ、ハッキリとは…」
弁護士「だとすると、フィギュアをそこまで嫌っていなかったのではないですか」
妻 「まあ…そうですね」
客観的な事実ではなく、当時の意思や感情などについての証言は、質問に誘導されてしまうのです。妻は、
「不満があれば伝えていた」
「フィギュアがイヤだと伝えていなかった」
という事実を認めたことで、一貫性を保とうとし、「フィギュアが嫌だった」とは言いにくい状況に追い込まれているのです。
質問を行動につなげるには、一貫性の法則を使い、目的に結びつく価値観、相手の規範、状況を事前に発言させるのが効果的です。
質問で答えをうまく誘導するには今回の3つのポイントをおさえましょう。心理戦をうまく進めるコツをもっと知りたい人は、「プロ弁護士の「心理戦」で人を動かす35の方法」を読んでみてはいかがでしょうか?
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