アニメ映画の世界的巨匠・宮崎駿(はやお)監督(72歳)が引退する。9月1日、第70回ベネチア国際映画祭で『風立ちぬ』の上映に先立ち、スタジオジブリ(以下、ジブリ)の星野康二(こうじ)社長が発表した。
このニュースは日本はもとより世界中で報道され、引退を惜しむ声が至る所から上がった。
過去、宮崎監督は『もののけ姫』(1997年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)の公開前に引退をほのめかす発言をしたが、その後も新作を作り続けた“前科”がある。そのため、「本当に引退するのか?」と懐疑的に見るファンは多い。
しかし、今回は“ジブリ公式”の発表であり、宮崎監督自身が引退会見を開いたことからも、その本気度は高いと見ていいだろう。
アニメ評論家の藤津亮太(ふじつ・りょうた)氏は、宮崎監督の引退についてこう語る。
「宮崎監督は企画や脚本、絵コンテ(映像の流れを絵と文字で説明したもの)から各カットの原画まで作品作りの大半に関わります。そして、そのスタイルで長編映画を作るのは非常に過酷であり、体力の限界だったのだと思います。
しかし、引退といっても、あくまでも“長編映画”から身を引くのであり、“アニメ制作”をしないという意味ではありません。今後は、シナリオ開発などの形で若手監督のバックアップをしたり、『三鷹の森ジブリ美術館』(東京都三鷹市)で上映する新作短編アニメの制作に取りかかったりすることになるのではないでしょうか」
となると、気になるのはジブリの今後についてだ。宮崎監督とともにジブリを支え、今年の11月に新作『かぐや姫の物語』の公開を控えている高畑勲(たかはた・いさお)監督も77歳の高齢で、長編映画をバリバリ作る体力は残っていない。
ジブリは近年、『ゲド戦記』(06年)、『コクリコ坂から』(11年)の宮崎吾朗氏や、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)の米林宏昌(よねばやし・ひろまさ)氏といった若手を監督に起用し、それぞれ成果を挙げてきた。しかし、さらに新しい才能を発掘するのは難しいかもしれない。
「ジブリはトップに宮崎監督、高畑監督という圧倒的な演出家がいて、下に多くのアニメーターがいるという、いわば“職人集団”。小さな失敗を積み重ねさせつつ、演出家を育てるということをしていません。そのため、トップのふたり以外で監督の仕事を経験したことがある人材がいない。米林氏も『アリエッティ』が初監督作品でした」(藤津氏)
では、今後は“ジブリの外”から監督を起用することが多くなるのだろうか。近年では『猫の恩返し』(02年・森田宏幸監督)がその成功例だ。しかし、藤津氏はこの見解を否定する。
「ジブリの長編映画は基本的に宮崎監督か高畑監督、そして“宮崎監督が抜擢した人”が作ってきたという歴史があります。それを急転換するとは考えにくい。しばらくは、吾朗氏と米林氏を二枚看板にしつつ、社内で監督ができる新たな人材を根気強く育てる、という方針じゃないでしょうか」
また、藤津氏は「ジブリの今後を占うキーマン」として、鈴木敏夫氏の名前を挙げる。宮崎監督の盟友として数々のジブリ映画のプロデューサーを務めた人物だ。
「ジブリの宮崎体制を支えたのは、全体の采配を振るう鈴木氏です。なので、宮崎監督が引退した後も彼がジブリでプロデューサーを続ければ、宮崎体制のときと似た映画の作り方になるだろうし、距離を置けばジブリも変わらざるを得ないと思います」(藤津氏)
それがどのようになるのかは、今のところわからない。いずれにせよ、国民的アニメスタジオが大きな転換期を迎えているのは間違いなさそうだ。 【関連記事】
・未経験の男子が好きなジブリキャラNo.1は?
・細田 守「宮崎駿になりたくてアニメをやってるわけじゃない!」
・アニメ『あの花』監督・長井龍雪「アニメでやれることは、まだまだ掘り尽くされていない」
・エヴァ総監督、庵野秀明の“破天荒伝説”
・新進気鋭のアニメーション監督・新海誠「リアルで充実している人はアニメなんか観なくてもいいんじゃないですかね(笑)」
このニュースは日本はもとより世界中で報道され、引退を惜しむ声が至る所から上がった。
過去、宮崎監督は『もののけ姫』(1997年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)の公開前に引退をほのめかす発言をしたが、その後も新作を作り続けた“前科”がある。そのため、「本当に引退するのか?」と懐疑的に見るファンは多い。
しかし、今回は“ジブリ公式”の発表であり、宮崎監督自身が引退会見を開いたことからも、その本気度は高いと見ていいだろう。
アニメ評論家の藤津亮太(ふじつ・りょうた)氏は、宮崎監督の引退についてこう語る。
「宮崎監督は企画や脚本、絵コンテ(映像の流れを絵と文字で説明したもの)から各カットの原画まで作品作りの大半に関わります。そして、そのスタイルで長編映画を作るのは非常に過酷であり、体力の限界だったのだと思います。
しかし、引退といっても、あくまでも“長編映画”から身を引くのであり、“アニメ制作”をしないという意味ではありません。今後は、シナリオ開発などの形で若手監督のバックアップをしたり、『三鷹の森ジブリ美術館』(東京都三鷹市)で上映する新作短編アニメの制作に取りかかったりすることになるのではないでしょうか」
となると、気になるのはジブリの今後についてだ。宮崎監督とともにジブリを支え、今年の11月に新作『かぐや姫の物語』の公開を控えている高畑勲(たかはた・いさお)監督も77歳の高齢で、長編映画をバリバリ作る体力は残っていない。
ジブリは近年、『ゲド戦記』(06年)、『コクリコ坂から』(11年)の宮崎吾朗氏や、『借りぐらしのアリエッティ』(10年)の米林宏昌(よねばやし・ひろまさ)氏といった若手を監督に起用し、それぞれ成果を挙げてきた。しかし、さらに新しい才能を発掘するのは難しいかもしれない。
「ジブリはトップに宮崎監督、高畑監督という圧倒的な演出家がいて、下に多くのアニメーターがいるという、いわば“職人集団”。小さな失敗を積み重ねさせつつ、演出家を育てるということをしていません。そのため、トップのふたり以外で監督の仕事を経験したことがある人材がいない。米林氏も『アリエッティ』が初監督作品でした」(藤津氏)
では、今後は“ジブリの外”から監督を起用することが多くなるのだろうか。近年では『猫の恩返し』(02年・森田宏幸監督)がその成功例だ。しかし、藤津氏はこの見解を否定する。
「ジブリの長編映画は基本的に宮崎監督か高畑監督、そして“宮崎監督が抜擢した人”が作ってきたという歴史があります。それを急転換するとは考えにくい。しばらくは、吾朗氏と米林氏を二枚看板にしつつ、社内で監督ができる新たな人材を根気強く育てる、という方針じゃないでしょうか」
また、藤津氏は「ジブリの今後を占うキーマン」として、鈴木敏夫氏の名前を挙げる。宮崎監督の盟友として数々のジブリ映画のプロデューサーを務めた人物だ。
「ジブリの宮崎体制を支えたのは、全体の采配を振るう鈴木氏です。なので、宮崎監督が引退した後も彼がジブリでプロデューサーを続ければ、宮崎体制のときと似た映画の作り方になるだろうし、距離を置けばジブリも変わらざるを得ないと思います」(藤津氏)
それがどのようになるのかは、今のところわからない。いずれにせよ、国民的アニメスタジオが大きな転換期を迎えているのは間違いなさそうだ。 【関連記事】
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