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加藤嘉一「エジプトの混乱と同様の事態は、将来の日本にも十分起こり得ます!」

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「アラブの春」から約2年。エジプトの政治が再び大きな混乱に陥っています。この問題の本質を考えれば、日本にとっても決して対岸の火事ではありません!

6月末から7月にかけて軍による事実上のクーデターが起き、現在も混乱が続くエジプト。新たに誕生した暫定政権と、モルシ前大統領の出身母体であるイスラム組織「ムスリム同胞団」との和平交渉も決裂し、再び両陣営の衝突が激化する懸念が高まっています。

エジプト情勢は日本ではあまり大きく報道されませんが、アメリカでは連日、トップニュースに近い扱いです。理由は、中東情勢がエネルギー問題に大きな影響を与えるからというだけではありません。

エジプトの近代史を鑑(かんが)みると、アラブ中東地域のイスラム国家のなかでは比較的西側に近く、近代化を実現できる要素が整っている。それだけに、エジプトという国家の動向は、アメリカ型民主主義をアラブ中東地域に広められるかどうかの“試金石”としても重要なのです。

エジプトの現状を見て「民主化の後退だ」と分析する評論家もアメリカにはいますが、一概にそうは言えません。

そもそも、約30年も独裁を続けてきたムバラク政権が2011年に倒れたプロセスは、果たして“民主主義的”だったでしょうか? いわゆる「アラブの春」に感化されて立ち上がった若者たちの大規模デモは、率直に申し上げて民主的というよりも「実力行使」に近いものでした。実際のところエジプトという国家は、まだ民主化へのスタート地点にも立っていない。今回の騒動は“後退”ではなく、民主化への過渡期と理解すべきです。

アメリカのジャーナリストで中東情勢に造詣の深いトーマス・フリードマンは、『ニューヨーク・タイムズ』に寄せたコラムで次のように書いていました。

「今のエジプトに必要なのは、国家的な和解である」

エジプトにとって何よりも大事なのは、武力を排除した状態で国内が安定することだ。温和な政策を施すことで、分裂したエジプトをリセットすべきだ。シリアやリビア、パレスチナ、イラクなど、中東には問題を抱えたまま“国家的な和解”に至らない国がたくさんあるからこそ、エジプトの安定化へのプロセスは重要なケーススタディになり得る。フリードマンはそう提言しているとぼくは理解しました。

今回の混乱に対し、アメリカは表立ってどちらかの陣営を支持したり、調停のために介入するような動きを見せていません。イラクでの失敗などを踏まえると、アメリカが強引にカタをつけるべく国家建設に直接干渉したところで、長くは安定を維持できないどころかむしろ“逆効果”にもなり得る―。オバマ大統領は、おそらくそう判断しているのではないでしょうか。

アメリカが民主主義を中東に広めたいと考えていることは間違いありません。しかし、それが現実問題として可能なのか? そこでリスクを負うことがアメリカの国益にかなうのか? その部分が経験値的に不透明だからこそ、良くも悪くも傍観の姿勢をとっている。アメリカもまた、中東への関わり方という点において大きな岐路に立たされている。

エジプトも含めたアラブ中東の多くの問題の本質は、さまざまな民族、宗教、価値観、派閥があるなかで、それらをいかに平和的に融和し、国家の近代化プロセスにつなげていくかということ。実は、これはそれほど表面化していないだけで、多くの西側諸国にも存在する問題です。

特に日本は今後、人口減少に伴って「移民社会」への移行も視野に入れざるを得ない状況にある。社会が多様化していく過程で、政治はいかに多くの利害や価値観を許容し、集約できるのか―。エジプトの混乱は、そういった問題を投げかけているのです。「日本では同じことは起こらない」と油断しきっている人、その根拠を逆に教えて!!

今週のひと言






エジプトの混乱と同様の事態は、






将来の日本にも十分起こり得ます!













●加藤嘉一(かとう・よしかず)







日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学アジアセンターフェロー。最新刊『不器用を武器にする41の方法』(サンマーク出版)のほか、『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)など著書多数。中国の今後を考える「加藤嘉一中国研究会」がついに発足! 【関連記事】
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