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この文章の執筆に取りかかる前、私はパソコンでチェスをやっていました。お分かりの通り、すぐ執筆にとりかかりたくないための、単なる先延ばしです。
やらなくてはならないことを先延ばしにしようとするのは、「自分がやっていることを、一歩引いた目線で考え直してみては?」という、身体からのサインです。
先延ばしだけではありません。凡人には凡人の戦い方というものがあります。私が思う7つの戦術をお伝えします。
1.先延ばしにするくらいなら人に任せた方が良いこともある
あなたが起業家で、つい先延ばししてしまう時には、クライアントに売り込んでいる内容について、もうちょっと時間をかけて考えたほうがいいのかもしれません。あるいは、その時に取り組んでいることは自分の得意分野ではなく、ほかの人に任せたほうが良い、と薄々気付いているための行動だったりします。
多少費用をかけて人に任せたほうが、結果的に時間もお金も節約できるケースも多いのですが、自分で何もかもやりたがる起業家が多いのです。私は初めて手がけた事業で、まるで頭が停電したようになって、プログラミング作業がまったくできなくなったため、ほかの人に作業をお願いしたことがあります。その日、筆者にはデートの約束がありました。当時の自分にとっては、徹夜でプログラムのバグ取りに汗を流すよりも、デートのほうがはるかに大事でした(その日、作業にあたってくれた彼には感謝しています)。
まずは、自分が先延ばししたくなる理由を突き止めましょう。
ジョブズなら無休で良くても、私みたいな凡人には無理です
アイデアをさらに磨くため、ブレインストーミングの必要があるのでは? あるいは、温めているアイデアがイマイチだと思っていませんか? ほかの人にやってもらったほうが良いのかもしれません。今のテーマについてさらに詳しく知ることが必要なケースもあるでしょう。あるいは、単に今やっていることがつまらないのでは? もしかすると、今やっている仕事の依頼主があまり好きじゃないとか、単に休みが必要という場合も考えられます。
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普通の人にとっては、創造力がフル稼働できる時間などほんの一瞬です。それが過ぎると、考える力が回復するまで待つ必要があります。これはすべての人に当てはまる話ではありませんし、天才なら、こうした時も楽に乗り切ってしまえるはずです。スティーブ・ジョブズは休みを取る必要など決して感じなかったことでしょう。でも、筆者のような凡人にはそうした時間が必要です。
また、先延ばしをする人には、完璧主義の傾向が強いのではないでしょうか。恥をかきたくないという思いは、事業の立ち上げや売却において障害になります。
先延ばししてしまう時には、その心理をあらゆる方面から検証しましょう。先延ばしは、あなたの身体が何かを伝えたがっているサインです。その声に耳を傾けてみてください。
2.「マルチタスク」でなく「ゼロタスク」で
天才は、2つ以上のことを同時にこなすマルチタスクが得意だ、という話はよく耳にします。確かにそうなのかもしれませんが、私にはムリです。
これは統計データからも断言できます。実は私は深刻な依存を抱えています。電話で誰かと話す時に、コンピューター・チェスをやらずにいられなくなるのです。電話が鳴ると、片方の手で電話を手に取るのと同時に、もう一方の手でコンピューターを操作し、1分でできるチェスのゲームを立ち上げてしまいます。チェスのランキングは統計処理による実力評価システムに基づいて決められているので、電話をしながらやっていたと時の成績と、電話をかけていない時の成績の差は簡単に比較できます。その差は標準偏差で「3」でした。つまり、電話で話している最中、私の知的能力は標準偏差にして3ほど下がるということです。
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たとえば、電話で話しながら車を運転したり、メールの返事をしたりした場合も、同じくらいのパフォーマンス低下が起きると考えて良いでしょう(このような「ながら対応」は、誰もが一度はやったことがあるマルチタスクではないでしょうか)。
凡人はマルチタスクなんかしない方がいい
確かに天才にはマルチタスクも可能なのかもしれませんが、そもそも天才の定義から言って、私たちの大部分はそれに入りません(トップの1%に含まれない人が99%を占めているのですから)。凡人の場合は、一度にやることはひとつに限った方がずっとうまくいきます。やるべき課題はひとつひとつこなしていけば良いのです。手を洗う時も、まずは水の流れる音を耳にし、流れる水の感触を確かめ、すべてを丁寧に洗っていきましょう。自分が今やっていることに集中し、きれいに洗い上げるのです。
成功したいと願う凡人は、「ゼロタスク」に秀でるよう努力すべきです。つまり、何もしないということです。いつも「何かをしている」ことが大事で、そうでないと恥ずかしいと、つい思ってしまいがちです(少なくとも私はそうです)。でも時には、あえて何も考えないようにして、心を静めたほうがよい場面もあるのです。最高の傑作は、静寂から生まれます。気持ちばかりが焦ったり、パニックになっている時には、良いアイデアは出てこないものです。
3.失敗こそチャンス
私が知っている限り、ラリー・ペイジは一度も失敗の経験がないはずです。大学院を卒業後、まっしぐらに億万長者への道を歩みました。マーク・ザッカーバーグやビル・ゲイツといった一握りの人たちも、同じルートをたどっているはずです。けれども、繰り返しになりますが、そもそも私たちの大部分は凡人です。天才に憧れて努力はしますが、決してそのレベルにはたどり着けません。ですから、私たちはしょっちゅう失敗します。「必ず」失敗すると決まっているわけではないですが、しょっちゅうそういう目に遭うはずです。
私はこれまで、17の事業を立ち上げましたが、そのうち16は失敗に終わりました。最初に成功した事業でも、あまりに多くのミスを犯したので、この件について改めて語るのも恥ずかしいくらいです。
Windowsを使ったことがないせいで商談が...
ある時、私は1996年に亡くなったラッパー、トゥパックのウェブサイトを作ろうと思い立ち、彼の母親に売り込みをかけました。参考のため、自分がそれまで手がけた仕事を「CD」(懐かしいですよね)に焼き、トゥパックのマネジャーのオフィスに出かけました。
マネジャーには「いいだろう。では作品を見せてくれ」と言ってもらえたのですが、ここで問題発生です。私はそれまでMacやUNIXマシンしか使ったことがなく、Windowsベースのマシンとはまるで縁がなかったのです。そのせいで、マネジャーのコンピュータのどこに持参のCDを入れたら良いかもわからず、CDに入れてきた作品を見せることができませんでした。ちなみに私の専攻はコンピュータ科学で、大学院にも通っています。マネジャーは「冗談だろう?」とあきれ顔でした。
これは9万ドル相当の仕事でした。受注できていれば、少なくとも2カ月の生活費は確保できていたでしょう。マネジャーのオフィスで失態を犯すまでは、もらったも同然の案件だったのです。マネジャーの笑い声を聞きながら、涙ながらにオフィスをあとにしました。
自分のオフィスに戻ると、みんなが口々に「商談はどうだった?」と聞いてきました。そこでは「うまく行ったと思うよ」と答えたのですが、帰宅後、さらに涙が止まりませんでした。私は物事を引きずりがちなタイプなのです。そのあとはWindows搭載のPCを買い、使い方を覚えました。この一件のあとは1台もMacを買っていないはずです。成功から学ぶことも可能ですが、失敗から学ぶほうがはるかに簡単です。
失敗から学べる2つの事柄
大きく見れば、人生の大部分は失敗の連続で、そこに時おり、わずかな成功が入ってくるだけです。ただ、凡人であっても、失敗から2つの事柄を学ぶことができます。
第一に、自分が犯した失敗を克服する具体的な方法を学びます。同じ失敗を繰り返したくはないですから、学ぼうとするモチベーションは高くなりますよね。第二に、失敗したときの感情に対処する方法を学習できます。平凡な起業家は、それはもう嫌というほど失敗します。そのため、失敗への対処にかけては、たぐいまれな能力を身につけられます。この能力はきっと、お金の面での成功にも結びつきます。
平凡な起業家は、粘り強く続けることの重要性を身に染みて理解しています。でもそれは、自己啓発本にありがちな、「ゴールにたどり着くまではあきらめず前進しよう!」といったスローガンではありません。むしろ、「とりあえず失敗しなくなるまでは、失敗し続けよう」というのが、凡人にとっての「継続は力なり」の定義です。
4.アイデアに独創性は不要
私はこれまでの人生の中で、オリジナルなアイデアを思いついたことがありません。初めて成功を収めた事業は、「フォーチュン500」のリストに掲載された企業向けに、ウェブソフトウェアや戦略、ウェブサイトを構築するというものでした。独創性にこそ欠けますが、90年代当時、こうした事業には非常に実入りが良かったのです。
成功した投資案件はどれも、CEOやほかの投資家の方が自分より明らかに賢いケースでした。この件については、TechCrunchに「私のエンジェル投資家チェックリスト」と題した記事を書きました。逆に、エンジェル投資家として失敗した案件はどれも、私が自分の方が賢いと思い込んだケースでした。そんなわけがありません。凡人なのですから。
FacebookもEbayも、みんなアイデアの掛けあわせ
最高のアイデアとは、以前からある、何の関連もない2つのアイデアを選び、その2つをかけあわせ、その結果生まれる不恰好なアイデアを使って事業を構築するというものです。こうしたかけあわせは、美しいとはいえないものなので、作り出した人間以外は誰も関心を持たなかったのです。
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Facebookが好例です。これは、「インターネット」と「ストーキング」をかけあわせて生まれました。何ともすばらしい話ですね! しかもこの手のソーシャルネットワークではおそらく5番目という、後追いのサービスでした。Twitterは「インターネット」を「時代遅れのSMSプロトコル」と組み合わせました。まあ何とみっともない! でも見事に成功しました。Ebayは「eコマース」と「オークション」を融合させました。音楽の世界でもこうした現象があります。たとえば、「ジャクソン5」時代のマイケル・ジャクソンが歌った『アイル・ビー・ゼア』を、マライア・キャリーがカバーしています。もし、ジャスティン・ビーバーがジョン・レノンの名曲『イマジン』を歌ったら、きっと大ヒットするでしょう。私もうっかり聞いてしまうかもしれません。
5.人脈作りは時間の無駄
せっかくパーティーに来ているのに、誰とも話をせず、部屋の隅に所在なげに立っている人っていますよね。私はまさにそういうタイプです。テクノロジー系の会合には絶対に顔を出しません。人脈作りに役立ちそうな夕食会の招待を受けても、よっぽどのことがない限り断ります。家にこもって本を読んでいるのが好きなのです。
企業を経営していた時も、引っ込み思案すぎて従業員と話すのも避けるほどでした。階下にいる秘書と連絡を取り、ロビーに人がいなくなったのを見計らって、秘書に社長室のドアの鍵を解除してもらい、急いでロビーに向かうと、外に出たところで後ろのドアに鍵をかけていました。そして、私がそんなことをしていた会社は、悲惨な末路をたどりました。
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しかし、人脈作りに熱心すぎるのも考えものです。起業は、それだけでもハードな仕事です。1日のうち20時間を割いて、従業員や顧客を管理し、会議や商品開発の時間をやりくりしなくてはなりません。資金繰りなど、悩みのタネも尽きません。こうしたことをすべてこなしたあとで、いったい何ができるでしょう? 寝る間も惜しんで人脈作りですか? そんなことは、超一流の起業家に任せておけば良いのです。あるいは、ワラをもつかみたいという、切羽詰まった人たちに。
平凡な人間は20時間働いたら、可能な限り休みを取るべきです。金もうけへの道は厳しいのです。決してパーティーでどうにかなるものではありません。
6.交渉では何でも「イエス」と言う
以前経験した交渉についてお話ししましょう。「StockPickr.com」というサイトを立ち上げた筆者は、「TheStreet.com」のCEOと面会しました。このCEOは、「StockPickrの株式を取得したい、その代わりに貴社の広告枠をすべて買い取ろう」と申し出ました。これはおいしいと意気込んだ私は、「では、我が社の株式の10%を取得するということでいかがでしょう?」と提案しました。すると相手のCEOは笑って、「いや、50%だ」と言いました。「我々としては50%を取得したい」といった言い方ではなく、ただ「50%だ」と言い切ったのです。
そこで私は、自分に備わったあらゆる交渉技術を駆使して、答えをひねり出しました。「わかりました、ではそれで交渉成立です」と。私は根っからのセールスマンです。相手にはイエスと言ってもらいたいのです。「ノー」と言われると不安になりますし、さらに、嫌われたのではないかと思うと最悪の気分に陥ります。
ウェブサイト制作会社を立ち上げた時には、「Miramax.com」を手がけたいと、商談に臨みました。「5万ドルで」とふっかけると、「どうやっても1000ドル以上は出せないね」という返事でした。そこで私はいつもの交渉テクニックを使って、「それでOKです!」と答えたのです。
しかし、譲歩を重ねた結果はどうなったでしょうか。TheStreetの場合は、かなりの割合の株式を取得したことで、こちらの会社に対する責任感が生まれました。また、私が最初に立ち上げた会社では、Miramaxが実績のリストにあったことで、Con Edsionから大型契約をとりつけました。
私はセールスマンとしては凡庸ですし、一番うまく行った案件から学ぶようにしているとはいえ、交渉は下手くそと言えるでしょう。それでも、次第に多くの契約を結べるようになりました。時には赤字覚悟のサービスを余儀なくされることもありましたが、ある程度以上の人に「イエス」と言ってもらえれば、最終的には大きな魚が舞い込んでくるのです。
7.「人を見る目はない」と認める
凡庸な起業家には、マルコム・グラッドウェルが言うような「第一感」のひらめきはありません。グラッドウェルは著書の中で、ほんの2、3秒で即座に正しい判断に至る人たちを取り上げています。一方、筆者の場合は、直接会った、あるいは見かけた人でさえ、常に「嫌な人だ」という第一印象を抱いてしまいます。そのあとは逆に、相手を信用しすぎてしまうのです。さらに試行錯誤を繰り返し、毀誉褒貶を経たあとで、だいたい真ん中あたりの評価に落ち着くというのがいつものパターンです。また、信用できないと思った人とはすぐに縁を切ってしまう傾向もあります。
おそらく、一流の起業家は即座に相手の良し悪しを見極められるうえに、それがことごとく的確なのでしょう。でも、大多数の凡人にはこれは当てはまりません。
直感なんて信じるものじゃない
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今では、誰かに初めて会う時に、自分の直感を信じないよう肝に銘じています。
私の場合は、もっとその人を知ってから判断しなくてはなりません。何がその人を動かしているのかを知り、どんな立場の人であるにせよ、その人の心情に寄り添って考えます。話をよく聞き、その人のことを何も知らないうちに反論したり、うわさの輪に加わったりすることは避けます。もっと関係を深めたいと思う人については、より深く知るために時間を使います。私のような凡人は、不適切な人を自分のサークルに入れてしまうリスクが高いのです。それがわかっているからこそ、こうしたプロセスが必要になります。
というわけで、クライアントや従業員、買収する側やされる側、あるいは人生の伴侶でもそうですが、誰かと距離を縮めようと心に決めるまでに、多くの労力を割いて相手のことを考えるようにしています。そのせいで、ほかのこと、たとえばロケットを木星に送り込む方法を考える時間はなくなってしまいますが...。でも全体的に見て、これでうまくいっていると思います。
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「凡人に甘んじるのは良くないのでは?」と思った人もいるでしょうね。偉大さを目標にして努力するべきなのでは、と。その問いに対する答えはこうです。「もちろん努力はすべきです! でも、10人ドライバーがいたら、そのうちの9人は、『自分は平均的なドライバーよりも運転がうまい』と思っているという事実を忘れてはいけません」。
私たちはふつう、自分を買いかぶりがちです。けれどもこうした過大評価は、大金持ちになるうえで障害となります。そこまで行かなくても、自由を確保し、家族を養い、人生のさまざまな楽しみを味わうくらいの成功を手に入れるうえでも障害になるのです。
凡人だからといって、世界を変えられないわけではありません。そんな人こそ、自分自身、そして周囲の人々にありのままの自分を正直に見せるべきです。そして、どんな場面でも自分に正直でいることこそ、成功への一番の近道なのです。
The Seven Habits of Highly Effective Mediocre People | The Altucher Confidential
James Altucher(原文/訳:長谷 睦/ガリレオ)
Photo by Thinkstock/Getty Images.
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