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これから夫婦として新しい生活をスタートさせることをお披露目する結婚式。
なぜ挙式・披露宴を行うのか? そこに込める新郎新婦の思いはさまざまです。
結婚マーケットを見つめ続け、創刊20周年を迎えた結婚情報誌「ゼクシィ」の副編集長、松本依子(まつもとよりこ)さんに結婚式の変遷と、今人気の演出について聞いてみました。
結婚式にはそのときどきの「時代性」と、カップルが育ってきた「世代性」とが大きく反映されることがわかりました。
少し前までは、結婚式の主役は女性というイメージが強く、男性が準備に参加せずケンカになるというケースも。しかし、今は男性も準備や当日の演出などに積極的に参加しているようです。
結婚式のトレンドは10年ごとに変化している
「実は、結婚式のトレンドは10年ごとに変化しているんです」と松本さん。その変遷は、次の通りです。
1980年代~ 「ハデ婚」時代
バブル時代、とにかく派手に新郎新婦をお披露目する結婚式がはやりました。
大きなイミテーションのウエディングケーキやゴンドラといった演出に、衣装や料理もとにかく豪華。今では少なくなりましたが、有名芸能人の披露宴がテレビ中継され、高視聴率をとるような時代でした。
1990年代~ 「ジミ婚」時代
バブルがはじけると一転して今度はお金をかけない質素な結婚式や、レストランでシンプルな食事会をするスタイルが出てきました。
2000年~ 「アットホーム」婚時代
ジミ婚の反動で、「やっぱりふたりだけではなく、人とのつながりも大事にしたい」と感じ始めた頃、以前のようなただ派手な結婚式に戻るのではなく、カップルたちが作り出したのが、堅苦しくない、アットホームな結婚式。
新郎新婦が座る高砂席のひな壇を排除し、ふたりがゲストをもてなすという風潮が生まれました。庭やプールがあり、貸切できる一軒家タイプのゲストハウスが次々に全国にオープンし、人気となりました。
2010年~ 「アットハート婚」時代
そしていまは、「心」を大事にする時代だと松本さんは言います。親や友だちへ感謝を伝えること、みんなに祝福、承認してもらうこと、ふたりで幸せを誓うこと、といった「心」を大事にする結婚式です。そんな結婚式をゼクシィでは「アットハート婚」と名付けました。
自分の発信に対して反応が返ってくることが当たり前の環境で育った携帯電話世代の若者は、人と人とのつながりを、常に意識していると言います。
ゼクシィのアンケートによると、挙式・披露宴を行った理由として7割以上のカップルが「親への感謝」と答えました。結婚式を挙げる理由が「お披露目」や「憧れ」といった自分軸から「感謝を伝える」、「おもてなし」という他人軸へと変化していることがわかります。
演出は内容ではなく「意味付け」によって差別化する
挙式や披露宴の中で行われる演出の内容も、時代とともに変わっています。「心」を大事にする今の結婚式の演出は、どのようなものなのでしょうか?
母親と過ごす究極の時間:ヴェールダウン
教会の入口から祭壇までの道を「バージンロード」と言います。花嫁が歩くこの道は、両親に支えられて育ってきたこれまでの時間を意味します。そして、過去を歩き終わった先には新郎との未来が待っているのです。
バージンロードは父親と一緒に歩くことが一般的で、そのとき母親は祭壇前の席で待っていて出番はなかったのですが、今は、歩く前、入口で母親に「ヴェールダウン」をしてもらう人が増えていると言います。
「お母さんが花嫁のヴェールを優しく下ろす。それはほんの数秒、きっと1分にも満たない時間でしょう。『ありがとう』、『行ってらっしゃい』と言葉を交わす場合もあれば、泣いてしまうからと何も言わずに、ただ見つめ合うだけの親子もいます」
両親への感謝を込めて:ラストバイト
新郎新婦によるケーキカットは、昔から人気の演出。その形は残したまま、最近は少し内容が変化しているのだとか。
ケーキカットのあと、新郎新婦がお互いにケーキを食べさせ合うことを「ファーストバイト」と言います。これには、新郎は「これから一生あなたを食べさせます」という誓い、新婦は「これから一生あなたにおいしいご飯を作ります」という思いが込められています。
これに加えて、最近行われているのが「ラストバイト」で、親が新郎新婦にケーキを食べさせること。「最後のあーん」、つまり、子育ての卒業を意味し、また子どもからは、「これまで食べさせてくれてありがとう」という感謝の気持ちが込められています。
親が大事にとっておいた、赤ちゃんのときにご飯を食べさせていたスプーンを使うこともあるそうです。
ゲストとのつながりを大事にする演出:リングリレー、ブーケ・ブートニア
このほか、ゲストとのつながりを大事にする演出も人気です。
挙式でバージンロード側のゲストの手に渡ったリボンに結婚指輪を通して、ゲストが祭壇にいる新郎新婦まで届ける「リングリレー」。
また、新郎が入場の時にゲスト一人ひとりから花を1本ずつ受け取り、最後に花束にして新婦に渡すことで結婚を申し込む意味を伝え、新婦は、答える意味で花束から1本花を取り出し、新郎の胸ポケットに挿す、ブーケ・ブートニアの儀式。
親やゲストと一緒に行う演出がいまの特徴のようです。一昔前は、「人と同じことはしたくない」と意表をつくような珍しい演出がはやりましたが、今はどうなのでしょうか?
「今のカップルも、少しはそういう思いはあります。でも昔のような"一風変わった"演出をする人は少ないですね。例えばケーキカットの代わりに、以前はマグロの解体ショーという演出をするカップルがいました。でも今は、二人が付き合った期間の長さをロールケーキの長さで表現するなど、『意味付け』によって差別化することの方が多いです」
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男性も結婚式の主役になれる
随分、親への感謝を表に出すようになったと感じるのですが、これには何か理由があるのでしょうか?
「以前は、家と家同士の結婚式でしたので、親はホストとして末席に座り、式や披露宴ではスポットライトを浴びることはありませんでした。それが、今は新郎新婦がホストになって親やゲストをもてなす結婚式に変わってきているんです。それに、"友だち親子"が増えて、親子の距離も昔に比べると近いですね」
なるほど、でも、照れくさかったりしないのでしょうか。特に男性は抵抗ないのでしょうか。
「今の結婚式を迎える世代の男性は『男たるものこうあるべき』といった教育を受けて育っていません。ちょうど小学校で家庭科の授業を男性も受けるようになった世代。恥ずかしいといった感覚ではなく、親も友だちもとても大事にします。披露宴でも「花嫁の手紙」だけでなく、新郎が親に手紙を読んで号泣するというシーンも多く見られるようになりました」
結婚準備に積極的に参加する男性も増えました。ゼクシィではそのような男性を「イケ婿」と名付けていますが、ゼクシィが実施したアンケートでは、85%の新婦が、「新郎が結婚式の準備に積極的だった」と答えたそうです。
「一緒に楽しみ、協力しながら結婚準備をするカップルは、そのままスムーズに結婚生活に入れるのではないでしょうか」と松本さんは言います。
これまで結婚式は女性が主役というイメージがありましたが、男性も積極的に参加できる時代になったのですね。
時代を超えても「変わらない」ものとは
時代背景の影響を受けながら変化してきた結婚式。
数々の変遷を経ながらも、「変わらないもの」もあるのでしょうか?
そんな私の質問に、「うーん、変わらないもの......」と少し考えて、松本さんはこのように話してくれました。
「変わらないものは、ご祝儀と引出物の文化でしょうか。内容はもちろん変わっていますが、それを行うしきたりとしては、ずっと変わっていません。ご祝儀は、ゲストから新郎新婦への『祝福』、引出物は新郎新婦からゲストへの『感謝』の気持ちです。新郎新婦とゲストをつなぐこの二つがずっと変わらないのは、やっぱり結婚式が今も昔も『心の交流』の場だからだと思います」
今回話を聞いてみて、ほんの2~3時間という短い時間ではありますが、結婚式にはそのカップルの「人生」が詰まっている、と言っても過言ではないと感じました。
これまで育ってきた人生と、自分が選んだパートナーと一緒に生きていくこれからの人生と。
その節目である結婚式に、これから結婚する皆さんは、どのような意味を込めるのでしょうか? また、誰に、何を伝えるのでしょうか?
カップルの数だけ、その答えがありそうです。
ゼクシィnet
(尾越まり恵)
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