今年4月、4人の昆虫学者が幕張に集合し、アフリカのバッタやアリの巣の生態系について熱いプレゼンを発表、それを数千から数万もの人がニコニコ動画を通じて視聴した。ムシなんていう地味なネタなのに!
このプレゼンが行なわれた「ニコニコ学会β(ベータ)シンポジウム」、そしてそれを主催した「ニコニコ学会β」とはなんだろうか。著書『進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』でその活動について語る、発起人にして実行委員長の江渡浩一郎氏に聞いた。
―ニコニコ動画では、素人がプロ顔負けのコンテンツを発表しています。そんな「ユーザー参加型コンテンツ」にならって、「ユーザー参加型研究」と呼んでますね。
「一般の人がネットで情報発信するようになって、さまざまなイノベーションが起きました。それを学問の世界でも起こそうというのが、ニコニコ学会βです。プロの研究者ではない人にも、自分の研究成果を動画形式で発表し、視聴者にはそれについてコメントをつけてもらっています」
―「野生の研究者」という言葉が出てきます。
「今の日本には、プロではないけれど、なぜか自分で研究をしてしまうアマチュアの研究者がたくさんいるんですよ。彼らのことを『野生の研究者』と呼んでいます。ニコニコ学会βの委員でも、学生時代に日本の民俗史における『しゃっくりの止め方』の研究をしていた人がいます。面白そうでしょう? でも、この研究が注目されることはなかった。理系でも同じような境遇の人がいるでしょう。そういう人が大勢出て、自身の成果を世に発信する。そういう仕組みを作りたかったんです」
―ネット中継される講演というと、「TED」が有名ですね。
「あるプロフェッショナルの広めるべきアイデアを、きちんとショーアップして全世界につなぐ。そういう点でTEDは非常に優れています。でも、僕はいいなあと思いつつも、自分たちとは関係ないな、と思ってしまうんですよね。どこかアメリカンエリートな感じがするじゃないですか」
―どういうことですか。
「すごいキャリアをもった人が、壇上から洗練された身振り手振りで、素晴らしいアイデアを聴衆に伝える、という印象なんですよ。『自分の活動は優れているので、皆さんにお見せします』というような。それを否定するつもりはないのですが、やっぱり日本人は参加しづらい気がするんですよね。『素晴らしいかどうかはわからないけど、僕はこう思うんだ』というほうがいいと思うんです」
―4回シンポジウムを開催し、延べ視聴者数は約35万人とか。寄付も相当集まっているようですね。
「将来、研究資金を支援者から集められるようになればいいですね。そこまでいかなくても、研究者の熱意で人から支援を得られるようになったらいいと思います。例えば、こういう未来のために、こんな製品を作りたいと動画でアピールする。それを見て共感したデザイナーが支援したり、作る能力のある工場が協力したり。『じゃあ僕がやります』って言う人と研究者がうまくマッチングされたら、お金なんかなくても開発ができるようになる。
それから国際展開ですね。MIT(マサチューセッツ工科大学)などで、『野生の研究者』がアメリカンエリート相手に熱弁を振るう、とか楽しそうでしょう」
―ミスマッチがいいですね(笑)。
「でも、それは多くの人に参加してもらわないと実現しません。まず過去の動画を見て、感想をコメントしてほしい。ぜひ『アカデミア』の進化に力を貸していただきたいと思います」
(撮影/本田雄士)
●江渡浩一郎(えと・こういちろう)
メディアアーティスト、独立行政法人「産業技術総合研究所」主任研究員。2010年、東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。主に著書に『パターン、Wiki、XP』(技術評論社)など
■『進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』
江渡浩一郎 ニコニコ学会β実行委員会(著)
イースト・プレス 1365円
「野生の研究者」たちによる「ユーザー参加型研究」を促進すべく2011年に発足した、「ニコニコ学会β」。オンライン視聴者数約35万人を誇るこの活動はなぜ始まり、何を目指すのか? 委員長の江渡氏と実行委員が語る
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―ニコニコ動画では、素人がプロ顔負けのコンテンツを発表しています。そんな「ユーザー参加型コンテンツ」にならって、「ユーザー参加型研究」と呼んでますね。
「一般の人がネットで情報発信するようになって、さまざまなイノベーションが起きました。それを学問の世界でも起こそうというのが、ニコニコ学会βです。プロの研究者ではない人にも、自分の研究成果を動画形式で発表し、視聴者にはそれについてコメントをつけてもらっています」
―「野生の研究者」という言葉が出てきます。
「今の日本には、プロではないけれど、なぜか自分で研究をしてしまうアマチュアの研究者がたくさんいるんですよ。彼らのことを『野生の研究者』と呼んでいます。ニコニコ学会βの委員でも、学生時代に日本の民俗史における『しゃっくりの止め方』の研究をしていた人がいます。面白そうでしょう? でも、この研究が注目されることはなかった。理系でも同じような境遇の人がいるでしょう。そういう人が大勢出て、自身の成果を世に発信する。そういう仕組みを作りたかったんです」
―ネット中継される講演というと、「TED」が有名ですね。
「あるプロフェッショナルの広めるべきアイデアを、きちんとショーアップして全世界につなぐ。そういう点でTEDは非常に優れています。でも、僕はいいなあと思いつつも、自分たちとは関係ないな、と思ってしまうんですよね。どこかアメリカンエリートな感じがするじゃないですか」
―どういうことですか。
「すごいキャリアをもった人が、壇上から洗練された身振り手振りで、素晴らしいアイデアを聴衆に伝える、という印象なんですよ。『自分の活動は優れているので、皆さんにお見せします』というような。それを否定するつもりはないのですが、やっぱり日本人は参加しづらい気がするんですよね。『素晴らしいかどうかはわからないけど、僕はこう思うんだ』というほうがいいと思うんです」
―4回シンポジウムを開催し、延べ視聴者数は約35万人とか。寄付も相当集まっているようですね。
「将来、研究資金を支援者から集められるようになればいいですね。そこまでいかなくても、研究者の熱意で人から支援を得られるようになったらいいと思います。例えば、こういう未来のために、こんな製品を作りたいと動画でアピールする。それを見て共感したデザイナーが支援したり、作る能力のある工場が協力したり。『じゃあ僕がやります』って言う人と研究者がうまくマッチングされたら、お金なんかなくても開発ができるようになる。
それから国際展開ですね。MIT(マサチューセッツ工科大学)などで、『野生の研究者』がアメリカンエリート相手に熱弁を振るう、とか楽しそうでしょう」
―ミスマッチがいいですね(笑)。
「でも、それは多くの人に参加してもらわないと実現しません。まず過去の動画を見て、感想をコメントしてほしい。ぜひ『アカデミア』の進化に力を貸していただきたいと思います」
(撮影/本田雄士)
●江渡浩一郎(えと・こういちろう)
メディアアーティスト、独立行政法人「産業技術総合研究所」主任研究員。2010年、東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。主に著書に『パターン、Wiki、XP』(技術評論社)など
■『進化するアカデミア 「ユーザー参加型研究」が連れてくる未来』
江渡浩一郎 ニコニコ学会β実行委員会(著)
イースト・プレス 1365円
「野生の研究者」たちによる「ユーザー参加型研究」を促進すべく2011年に発足した、「ニコニコ学会β」。オンライン視聴者数約35万人を誇るこの活動はなぜ始まり、何を目指すのか? 委員長の江渡氏と実行委員が語る
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