NHKBS1の『cool japan』で「涼む」という特集をしました。日本人の夏の工夫です。
予想通りというか、外国人がまったく理解しなかったのは、「金魚」。
「魚を見て、どうして涼しくなるんだ?」「金魚以外も涼しく感じるのか? サバとかタイを見ても涼しいのか?」なんて疑問が連発しました。
「風鈴」も理解されないだろうなと思っていたら「いや、風が吹く。だから、鳴る。だから、音を聞くと風が吹いているんだなと想像できる。だから少しは涼しいと予想できる」という意外な意見が主流でした。
そうか、そうか、「風鈴」は理解できるのかとちょっと安心して「いや、待てよ。風を知るから涼しいのなら、『風鈴』じゃなくても木の葉とかでもいいの?」と聞くと「そうだよ。風で揺れるものならなんでもいい」と当たり前じゃないかという顔で、外国人全員に答えられました。
「どうして日本人は、こんなに涼む方法をたくさん持っているんだと思う?」というやや強引な質問をすると、「本来、働いてはいけない7月と8月になんとか働こうとするから、いろいろ工夫するんだろう」という、番組のコンセプトを根底から破壊するようなコメントがイタリア人からでました。制作者側は、「日本人のこまやかな感覚」「丁寧な知恵」なんて答えを求めていたのです。僕はこういう番組の意図を無視した発言が大好きです。
イタリア人は、本国の家族や友人から電話がかかってきて「えっ!? 8月に働いてるの!?」と驚かれると、こぼしていました。
日本の夏は、どうやら世界有数の凶暴さのようです。
ウガンダから来た女性が、「ウガンダの夏は、日陰に入るととても涼しい。でも、日本はどこに行っても湿度が高すぎる」とこぼして、欧米人もブラジル人もインドネシア人もみんなうなずいていました。
番組では、クールビズのスーツを紹介しました。紫外線カット素材や薄い布地など、クールなジャパンのハイテク技術も駆使した背広で、「さあ、どうだ? これは、君達の国でも売れるんじゃないか?」と聞くと、
「そもそも、こんなに蒸し暑い国でスーツを夏に着ることが間違っている」と返されました。
「じゃあ、君たちの国では夏にスーツを着ないのか?」と、半ばムキになって聞くと「弁護士とか銀行員は着るけど、外回りの営業マンは絶対に着ない。夏はシャツだけ」とこれまた、全員の外国人が返しました。
◆“凶暴に熱い日本”でも優先されるのは社会の規律
悔しいなあ、うらやましいなと思いながら、また、凶暴な夏がやってきます。この100年で東京の気温は3.3度、上がったそうです。
もはや亜熱帯と言ってもいいのに、今年もまた、サラリーマンは背広を着せられ、結果、会社では冷房をガンガンに入れ、女子社員は冷え性に苦しみ、エアコンの排気熱で都会はさらに灼熱の亜熱帯になり、そんな炎天下で生徒の体調はまったく無視した高校野球がおこなわれ、試合終了と共に脱水症状で担ぎ込まれる選手が日本各地で続出し、しかし球児の健全な生育と行動を求める高野連は何人倒れようとスケジュール通りに試合を進行し、日本人は必死に仕事を続けるのです。
あたしゃ、この連載が始まった20年近く前から、「夏にバカンス。大型バカンス。最低でも二週間のバカンスが普通になる国、日本!」と言い続けているのですが(二週間は、ものすごく妥協してます。ヨーロッパだと一か月、四週間が平均ですからね)、日本が変わるまで言い続けるぞと言っているんですが、あんまり変わらないのでくじけそうになっていますが、負けるもんか。こういうのは、言い続けないとダメなんです。あきらめたら、そこで試合終了なんです。はい。でもつらいです。
安倍首相が「みなさん、この夏からスーツ、やめませんか。日本には、『かりゆしウェア』という素晴らしいものがあるじゃないですか」と言ってくれたら、私はそれだけで彼を断固支持する。アベノミスクの失速も目をつぶるぞ。バカンスの前に、まずはスーツから。 <文/鴻上尚史>
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」 ―
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