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物を買っても幸せになれないのに、なぜ物が欲しくなるのか?

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物質主義


どんな人でも、新しい物を買いたくて頭がいっぱいになることがあります。今回は、人間の脳がなぜ物に執着するのか、そしてそれを抑えるにはどうしたらいいのかについて考えてみました。

物に執着してしまう物質主義。結婚生活の破綻につながったり、ストレスを増幅させたりすると知ったら、陥りたくないと思う人がほとんどでしょう。

典型的な物質主義者のイメージは、「ランボルギーニを諦めてポルシェを買ったと愚痴を言うような、上位一握りのハイクラスでスノッブな人」みたいな感じでしょうが、その傾向は誰にでもあるのです。ガジェット、ゲーム、ファッションブランドなど、対象は何であれ、誰でも物質主義的な面を持っています。

そのため、物質主義については研究もたくさんあり、いつも同じ結論が出ています。「物では幸せになれない」という結論です。ではなぜ私たちの脳は、「物で幸せになれる」という前提で私たちを突き動かすのでしょうか。以下にその仕組みを見ていきましょう。


人はなぜ物を買いたいと思うのか


物質主義という言葉は、人への悪口としてよく使われます。その言葉の意味する内容は、「飽くなき所有欲」と「その欲望が満たされれば幸せになれるという思い込み」に集約されます。そこから透けて見えるのは、「多くを手に入れるほど、人生は豊かになる」という一種の成功観です。認めたくありませんが、私たちはみな、程度の差はあれ、この主義を実践しているところがあります。

私たちは、「買い物」と「前向きな感情」とを結びつけて考えがちです。そして、新しい物を購入すれば幸せになれると考えます。そこには、はっきりとした相関関係があります。

米科学雑誌『Neuron』に掲載された論文では、物の購入を考えている時、脳で何が起きているかに注目しています。被験者に対し、製品の画像を一瞬だけ見せたところ、被験者がそれを気に入った場合は、脳の側坐核という領域が反応しました。脳の快楽中枢と言うべきこの部位は、欲しい物を手に入れることを考えただけでフル回転を始め、脳をドーパミンで満たすのです。

この件でもっとも奇妙な点は、何かを買うことを考えただけなのに、実際にそれを購入したのとほぼ同じ状態になったことです。米誌『The Atlantic』はこの点について、次のように説明しています。




「物質主義的な人は、何かを手に入れようと考えるだけで、短期的に幸福感が高まります。そういう人たちは、いつも何かを手に入れようと考えているので、それによって頻繁に気分が高揚している可能性もあります」と、ミズーリ大学のMarsha L. Richins教授は書いています。

「けれども、何かを手に入れようという考えに伴うポジティブな感情は、短時間で終わってしまいます。実際に購入した後でもポジティブな感情は味わえますが、購入前に感じていたほど強くはありません」


簡単に言うと、私たちの脳は「新しい物を手に入れれば幸せになれる」と考えるわけですが、なぜ脳がそのように機能するのかは完全には解明されていません。心理学をテーマにしたサイト「Psychology Today」では、物質主義の出どころの解明に挑む多数の研究の中から、いくつかの説を取り上げています。




エコノミストや政治家の多くは、物を買って所持したいという所有欲を、人間に生まれつきのものと考えています。これは、ダーウィンの進化論の観点から見ると理にかなって見えます。天然資源は限られているため、人間は競争によって、できる限り多くの物の所有権を主張する必要があるというわけです(中略)。

もう1つの理論では、物質主義を加速させているのは不安感や欠乏感だとしています。それは、私たちに常に警戒心を持たせるための、一種の進化メカニズムだというのです。この説を唱えているのは、例えば心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏などです。生物は、何か足りない物があると、生き残りの可能性を高めるための模索を続けます。ところが、満たされてしまうと警戒心がなくなり、付け入る隙を与えてしまうのです。


いずれの理論も完璧ではありません。ただ、常に新しい物を欲しがる理由がなんであれ、私たちは、「何かの入手によって、幸福感にプラスの効果がもたらされることはまずない」ということは知っています。


買い物をしても幸せにはならない


買い物


ほとんどの人にとっては驚くにあたらないと思いますが、研究に次ぐ研究(PDFファイル)で、買い物をしても幸せにはならないことがわかっています。特に大切なのは、形ある物の価値を高く考えすぎると、私たちはむしろ不幸せになるということです。

問題は、人が自分より多くの物を持っていると知った時に、少しがっかりしてしまうことだけではありません。物質主義的な価値観に重きを置きすぎると、うつ病や人格障害などの症状が現れやすいことです。タフツ大学の研究(PDFファイル)で、こうした影響が簡潔にまとめられています。




物質主義的価値観に関する既存の科学研究の結果は、明確で一貫しています。物質主義的価値観に重きを置く人は、物質主義の追求をそれほど重要でないと考える人に比べて、個人としての幸福度や精神の健康度が低いという結果が出ました。この相関性が認められた研究における被験者の属性はさまざまであり、裕福な人も貧しい人も、10代の人も高齢者も、オーストラリア人も韓国人も、同様の結果となりました。

複数の研究者がさまざまな方法で物質主義の度合いを測定してきましたが、いずれも同じような結果となっています。これらの研究はいずれも、物質主義的価値観の強さと、その人の幸福度を蝕むさまざまな要素(生活満足度の低さ、抑うつ症状、不安感、頭痛などの身体症状、人格障害、自己愛、反社会的行為)には関連があることを報告しています。


物質主義と幸福との相関性について解明が進むにつれ、その影響の大きさについても理解が深まってきました。英紙『ガーディアン』では、物質主義の悪影響のうち、さらに厄介なものについていくつか例を挙げています。




心理学専門誌『Psychological Science』に掲載された別の論文では、実験のために被験者を管理された環境に置きました。繰り返しぜいたく品の画像を見せ、「自分は社会の一員というよりは消費者である」と認識させるようなメッセージを流し、物質主義に関連する言葉(「購入」「ステータス」「資産」「高価」など)に触れさせたのです。

被験者はただちに(ただし一時的に)物への強い欲望、不安感、抑うつ症状を示したと報告されています。被験者たちはまた、より競争的、自己中心的になる一方で、社会的責任感が薄れ、要求の厳しい社会活動への参加意欲も減る傾向にありました。

この研究チームの指摘によれば、私たちは広告を通じて頻繁にそのようなイメージにさらされており、メディアによって常時、消費者であると吹き込まれているため、実験では一時的であった効果が、程度の差はあれ、もっと頻繁に生じている可能性があるということです。


物質主義は、買い物と密接な関係があります。物欲に抵抗を試みるためには、買い物中の自分の脳の中で、実際に何が起きているのかを理解しておきましょう。脳のさまざまなはたらきによって買い物の選択を誤りやすいことは、よく知られています。

「数字のマジック」や、セール会場の雰囲気など、小売店はさまざまな策略であなたを操ろうとしますが、そのことを知っていれば、対抗するのはさほど難しくありません。

同様に、ガジェットの新製品が出るたびに購入したくなるのにも理由があります。必要でないものを買いたいと思う時、脳の中で何が起きているかをきちんと把握しておきましょう。こうしたワザで物質主義を「やっつける」ことはできませんが、少なくとも、自分は物質主義の影響下にあるということを常に意識する役には立ちます。


体験は物よりも優れている


チケット


最近、本当に欲しいと思った物は何でしたか? それがピカピカの新型iPadだったとしましょう。欲しいと思っている間、ほかのことをあまり考えられなかったのではないでしょうか。やがてそのiPadを手に入れると、最初のうちは大切に使い、その都度iPadに見とれていましたね。でもしばらくすると、そのiPadのあなたにとっての重要性は、どんどん低下したはずです。

では次に、そのiPadのことは置いておいて、最近の楽しかった旅行のことを考えてみましょう。たぶん、iPadのことはもう何とも思わないのに、その休暇のことを思い出すと心が温まるのではないでしょうか。というのも、私たちには、物より体験に高い価値を見出す傾向があるからです。たとえその自覚がないとしても、です。

これについては、米紙『ニューヨーク・タイムズ』の記事がいろいろと説明しています。




(研究では、)購入品の種類、規模と頻度、購入のタイミングなどの要素はすべて、長期的な幸福に影響することがわかりました。もっとも大きな発見のひとつは、コンサートのチケットやフランス語のレッスン、寿司作り教室、モナコのホテルでの宿泊など、体験のためにお金を使うと、いつかは古くなるありふれた物を買うよりも、満足感が長続きするということです。

ブリティッシュ・コロンビア大学心理学部のElizabeth W. Dunn准教授は、心理学者Leaf Van Boven氏およびThomas Gilovich氏の研究を要約して、「新しいソファを買うより旅行をするほうが良い、というのが基本的な考え方だ」と述べています(中略)。

ウィスコンシン大学マディソン校のThomas DeLeire准教授(当時は先ごろ、消費行動の主要9分野についての研究を発表しました。それによると、幸せに対してポジティブな影響を与えている唯一の分野は、旅行、娯楽、スポーツ、関連用品(ゴルフクラブや釣り竿)などのレジャー部門だったそうです。


当然のことですが、持ち物をすべて捨てなさいとか、贈り物をやめなさいとか、iPadの不買運動をしなさいとか言いたいわけではありません。私たちが、本当に必要ではない物まで買いたいと思うのはなぜか、その理由を説明しようとしてきただけです。iPadの購入で、休暇と同じくらいの体験が得られる人もいるでしょう。また、時には、必要に迫られて物を買うこともあります。ただ、必要だから買うのと、欲しくて買うのには違いがあります。必要があって買う時には、私たちはめったに、「買えば幸せになれる」とは期待しないのです。

私たちは誰でも、「もっとお金と物があれば、もっと幸せになれる」と思い込みがちです。自分の持ち物を友人や家族の持ち物と比較してしまいがちですし、そうした所持品によって自分の見栄えがどう変わるかを気にしがちです。でも残念ながら、それらはまさに、不安感や抑うつ症状や不幸感へのレシピです。

物質主義的価値観に囚われないようにする確実な方法はありません。けれども、買い物に出かける時には、ここに書いてきたことを心の奥に携えておくと良いでしょう。


Thorin Klosowski(原文/訳:風見隆、江藤千夏/ガリレオ)

Photos by: Anna Rassadnikova, S-F, Denphumi, Hibiscus81, FatFreddie, and ginnerobot.

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