伝説の編集者として、出版界では知らぬ者のいない男、末井昭。自身が7歳のとき、実の母親が不倫相手と“ダイナマイト心中”をしたという特異な経験を持つ彼が、「自殺」についての思索を巡らせて書いた本が、『自殺』だ。末井氏に聞いた。
―末井さん自身は、自殺を考えたことはないんですか?
「ないですね。借金が3億円あった頃も、『競馬で返そう』なんてバカなことを本気で考えてましたから(笑)。経済問題は、日本の自殺理由のうち健康問題に次いで第2位なんだけど、借金で自殺まで考えるんだったら踏み倒しちゃえばいいし、お金のことで死ぬなんてバカバカしいと思いますね。
自殺する人というのは、自分の中で問題をどんどん突き詰めていって、『もう死ぬしかない』と思い込んじゃうんでしょうけど、そこで誰かがふっと話しかけるだけで、自殺スパイラルから抜け出せることもあるんです。この本がそんな役割を担えればいいなっていう気持ちで書きました」
―今、日常の場で悩みや愚痴を言い合える場が減っているといわれています。
「そう思います。会社で人に悩み事なんか相談してたら、仕事のできないダメなやつだと思われますもんね。今の会社って、株主のために利益を出すために、働く人間の労働力を最大限に使おうとする。今の政治は経済優先だから、ちゃんと働いて経済に貢献するような人材を政治がつくろうとしているんです。英語教育を奨励したりして。
でも、アベノミクスで景気が良くなっても、大して給料は上がらないし、好景気が続くのもせいぜい東京オリンピックまで。そういうなかで生きていくしかないわけだから、あんまり一生懸命にならないで、働いてるフリしてればいいと思うんですよね(笑)」
―この本の中では、モラルを振りかざす「世間サマ」に対しても抗議していますね。
「はい。世間サマは、グレーゾーンを許容しないから怖いですね。昔はエロ本を作るのにも、毎月、警視庁に行って『これはダメだろ』『あ、すいません』みたいな交流をしながら作ってたんですけど、世間サマはいきなり抗議の電話をかけてきますからね。
僕は去年、会社を辞めましたが、実はその理由も、社内でコンプライアンス問題が持ち上がった際に、『俺の中にコンプライアンスってないな』って気づいたからなんです。別に悪いことをして悪の世界に堕ちることはないけれど、雑誌は微妙なバランスを取りながら作ったほうが絶対に面白いじゃないですか」
―現在はますます生きづらい社会になっていると思いますか?
「落ちこぼれることを許さない社会ですからね。生きづらい人を救えるのは違う価値観です。それは心の問題、というか『魂』の問題なんですけど、それは学校では教えてくれません。
例えば老人になることは、社会の尺度では良くないことだけど、年を取っていいことはいっぱいありますよ。麻雀やってても、このメンバーで二度とできないかもしれないと思うと、かけがえのない時間になるし、年を取ると性欲が減退して、女性関係にまつわるややこしいことに悩まされなくなるし(笑)。
『高齢者になってもセックスを楽しもう』みたいな特集を雑誌で見かけますけど、『悩め』って言ってるようなもんですよ。誰かと飲んでるときでも、お互い心を開いていい感じのときってあるじゃないですか。それって、“精霊”というか、何か不思議なものが作用してると思うんです。こんなこと誰も問題にしないけど、僕はそういうことこそ掘り下げていきたいですね」
(構成/西中賢治 撮影/高橋定敬)
■末井 昭(すえい・あきら)
1948年生まれ、岡山県出身。編集者、エッセイスト、サックス奏者。写真家・荒木経惟との仕事や、日本初のパチンコ誌創刊などで知られる。著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』など
■『自殺』
朝日出版社 1680円
母親をダイナマイト心中で失ったという著者が、自身の経験も織り交ぜながら、やさしく、等身大の言葉で「自殺」についてつづった本。自殺を統計的に調査した法医学者や、樹海で200体以上の死体を見つけたという自然監視員のインタビューも含む
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―末井さん自身は、自殺を考えたことはないんですか?
「ないですね。借金が3億円あった頃も、『競馬で返そう』なんてバカなことを本気で考えてましたから(笑)。経済問題は、日本の自殺理由のうち健康問題に次いで第2位なんだけど、借金で自殺まで考えるんだったら踏み倒しちゃえばいいし、お金のことで死ぬなんてバカバカしいと思いますね。
自殺する人というのは、自分の中で問題をどんどん突き詰めていって、『もう死ぬしかない』と思い込んじゃうんでしょうけど、そこで誰かがふっと話しかけるだけで、自殺スパイラルから抜け出せることもあるんです。この本がそんな役割を担えればいいなっていう気持ちで書きました」
―今、日常の場で悩みや愚痴を言い合える場が減っているといわれています。
「そう思います。会社で人に悩み事なんか相談してたら、仕事のできないダメなやつだと思われますもんね。今の会社って、株主のために利益を出すために、働く人間の労働力を最大限に使おうとする。今の政治は経済優先だから、ちゃんと働いて経済に貢献するような人材を政治がつくろうとしているんです。英語教育を奨励したりして。
でも、アベノミクスで景気が良くなっても、大して給料は上がらないし、好景気が続くのもせいぜい東京オリンピックまで。そういうなかで生きていくしかないわけだから、あんまり一生懸命にならないで、働いてるフリしてればいいと思うんですよね(笑)」
―この本の中では、モラルを振りかざす「世間サマ」に対しても抗議していますね。
「はい。世間サマは、グレーゾーンを許容しないから怖いですね。昔はエロ本を作るのにも、毎月、警視庁に行って『これはダメだろ』『あ、すいません』みたいな交流をしながら作ってたんですけど、世間サマはいきなり抗議の電話をかけてきますからね。
僕は去年、会社を辞めましたが、実はその理由も、社内でコンプライアンス問題が持ち上がった際に、『俺の中にコンプライアンスってないな』って気づいたからなんです。別に悪いことをして悪の世界に堕ちることはないけれど、雑誌は微妙なバランスを取りながら作ったほうが絶対に面白いじゃないですか」
―現在はますます生きづらい社会になっていると思いますか?
「落ちこぼれることを許さない社会ですからね。生きづらい人を救えるのは違う価値観です。それは心の問題、というか『魂』の問題なんですけど、それは学校では教えてくれません。
例えば老人になることは、社会の尺度では良くないことだけど、年を取っていいことはいっぱいありますよ。麻雀やってても、このメンバーで二度とできないかもしれないと思うと、かけがえのない時間になるし、年を取ると性欲が減退して、女性関係にまつわるややこしいことに悩まされなくなるし(笑)。
『高齢者になってもセックスを楽しもう』みたいな特集を雑誌で見かけますけど、『悩め』って言ってるようなもんですよ。誰かと飲んでるときでも、お互い心を開いていい感じのときってあるじゃないですか。それって、“精霊”というか、何か不思議なものが作用してると思うんです。こんなこと誰も問題にしないけど、僕はそういうことこそ掘り下げていきたいですね」
(構成/西中賢治 撮影/高橋定敬)
■末井 昭(すえい・あきら)
1948年生まれ、岡山県出身。編集者、エッセイスト、サックス奏者。写真家・荒木経惟との仕事や、日本初のパチンコ誌創刊などで知られる。著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』など
■『自殺』
朝日出版社 1680円
母親をダイナマイト心中で失ったという著者が、自身の経験も織り交ぜながら、やさしく、等身大の言葉で「自殺」についてつづった本。自殺を統計的に調査した法医学者や、樹海で200体以上の死体を見つけたという自然監視員のインタビューも含む
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