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「漫画王」との呼び名も持つ、ジャック・カービー。彼は『ファンタスティック・フォー』『X-メン』『超人ハルク』『キャプテン・アメリカ』 といった数々の名作を生み出した漫画家です。
ジャック・カービーは1917年に生まれ、独学で絵画を習得したのち、1日に12〜14時間も働き、多くの功績を残しました。アメリカの二大漫画出版社のひとつであるマーベル・コミックスにも多大な貢献をしました。今回は、彼の生誕日、8月28日をつい先日迎えたことにちなんで、多くの名作を生み出した彼の仕事術を紹介しましょう。
必要なスキルは自分で習得する
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新しいスキルを自分で習得するのはすばらしいことです。特に、絵画は自分で習得することが可能なスキルの1つです。「The Comics Jounal」でのGary Groth氏によるインタビューで、カービー氏は非常に早い時期に絵画を独学で学び始めたことについて語っています。
グロス:絵の描き方をどうやって学んだか、お聞きしてもいいでしょうか。11歳の時に、地元の図書館で絵の描き方について解説している本を借りて、勉強を始めたのですよね?
カービー:そうです。わたしは小さな通信社向けに絵を描いていました。その通信社向けに「健康が一番大切です」というテーマで記事の挿絵を描きました。その後、チェンバレンがヒトラーと条約を締結したとき、わたしはもう一度呼ばれて、記事の挿絵を描いてほしいと頼まれました。「君みたいな若造が、チェンバレンとヒトラーの記事の挿絵を描くなんて、度胸があるよな」と言われましたが、わたしは「誰がギャングかって、その人を見ればわかるんだ」と答えました。ヒトラーは当時ヨーロッパ全体をのみ込もうとしていましたから。
グロス:なぜ絵を描き始めたのですか? 自分が絵を描けると思った理由はなんですか?
カービー:描きたかったからです。描けると思ったんです。描くことは誰にでもできることだと思いながら、描いていました。人はみな、やりたいこと、惹きつけられたことを実行する能力を持っています。
グロス:これまで、教育機関で芸術の教育を受けようと考えたことはありますか?
カービー:いいえ。しかし、若い人たちには、芸術の教育を受けることは有利になるだろうと伝えています。
新しいスキルを身につけたければ、毎日一定の時間を割いて、学習することです。カービー氏は、自身のことを先天的なアーティストであると言っていますが、同時に時間を費やせば、誰でも自分とおなじくアーティストになれると考えています。新しいスキルを身につける方法について調べるのも良いでしょう。ただ、世間一般で信じられるように、必ずしも学位が必要であるわけではないのです。自ら学習する時間を作る意志があれば。
「完璧」を捨て去り、できることを理解し、スキルを磨く
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クリエイティブなプロジェクトに携わっているとき、何日もかけて細部を調整するなどして完璧を目指しがちです。そうしたやり方が可能なプロジェクトもありますが、多くの人は無限に時間を費やせるわけではありません。カービー氏は、まさにこの点を自覚していました。1日に10ページもの漫画を描くこともよくあった彼は、完璧を追求することにこだわっていませんでした。
1970年に開催したある展示会で、彼は「完璧さ」に関する考えについて次のように書いています。
わたしが言えることはこれだけです。カニフ(訳注:漫画家のミルトン・カニフ氏)も私の教師です。アレックス・レイモンドも、『Toonerville Trolley』を描いた人も私の教師です。いくつかの面でわたしに刺激を与えてくれたという点で。刺激こそが私に必要なものなのです。刺激を得ることによって、ひとりの主体的な人間になれるのです。アーティストとしての能力にこだわらず、あなたができること、提供できるものをきちんと理解し、スキルを磨いていく。これさえできればいいのです。完璧さなど捨て去ることです。完璧である必要などありません。
この業界でやっていくのに必要なのは、プレッシャーです。プレッシャーを与えられれば、やる気が沸いてきます。自分にストレスを与えれば、やる気になります。やりたいという意志があれば、できるのです。どんな方法であろうと、それをやり遂げるでしょう。
あなたが今、関わっているプロジェクトで、完璧さを追求しているのであれば、カービーのこの考え方は、完璧な仕事をすることは常に可能でも必要でもないことを気付かせてくれます。また、多くの局面で重要なのは「成し遂げることが、完璧を追求することよりも大事」ということです。
ノーと言うべき時を知る
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カービー氏は、働き始めたときには積極的に薄給の長時間労働を自ら課してきたものの、最終的には「ノー」と言うことが必要だと感じるところにまで行き着き、異なるキャリアを模索しました。
同時代の漫画家は、長時間労働を課されながらも、十分な報酬と社会からの尊敬を得れずにいました。実際、多くの漫画家は自分が創ったものを所有していなかったのです。カービー氏はついにそうした状況に嫌気がさし、さまざまな出版社を渡り歩きました。報酬を得ることは常に困難の多い闘いでしたが、彼はノーと言うべき時があることを学んだのです。彼とマーベル・コミックスをめぐる状況についてはこのような記事があります。
歴史は繰り返すという事実は、ジャック・カービーについても同様だった。あるとき、彼は自分の置かれた状況に満足していないことに気付いた。スタン・リー(訳注:『スパイダーマン』などの原作を手がけた漫画原作者)が大衆の注目を独り占めしている状況、そして彼が原作の共同制作者であるにも関わらず、著作権者に彼の名前が入っていない状況に憤慨していた(「マーベル・スタイル」の脚本というのは、コンセプトの生みの親はジャックとスタンで、スタンはジャックに筋書きを任せるというもの。もしくはスタンが忙しくなったあとは具体化されていないアイデアを基にジャックは絵を描き、スタンはそれを言語化した。スタンの共同制作者が共同制作者としての著作権を得なかったのはインチキだ)。彼はマーベルの仕事の進め方を好まず、契約にも満足していなかった。そして、彼は去った...。
カービーはマーベル・コミックスを去ったあと、作品の中でも最高傑作のひとつと言われる長編漫画シリーズ『The Forth World』を制作します。辞める時期を見極めるのは誰にとっても難しいことです。しかし、カービーの行動は、時機を見極めて去る決断をするのはメリットが大きいこと、そしてクリエイターの権利向上に一役買ったことを教えてくれます。カービーはさらにキャリアの終盤で異なるスキルを習得します。映画やアニメーションにも挑戦し、クリエイティブであることにこだわり続けました。
ジャック・カービーは情熱と不屈の精神をもって多くの仕事を成し遂げました。長期間かつ低報酬で働いた末に、彼はいくつかの契約において「ノー」と言えるようになりました。そして、去ることの大切さを学びました。
彼は漫画の世界で多くの仕事を成し遂げ、多くの人には耐えられないような厳しい締め切りと闘い続けました。当時、漫画の学位なるものが無かった状況において、彼は自分で描き方を習得し、日々の練習を通じて、その仕組みと方法を身につけました。新しいスキルを身につけたいと願っている人は、彼のこうした姿勢を真似できるはずです。
Thorin Klosowski(原文/訳:佐藤ゆき)
Photos by VFS Digital Design, Brian A.
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