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【福島現地ルポ】「偽りの除染はもういい」は非県民か?

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「除染で復興が進むのか?」「このままでは住民が分断される」――。

放射性物質汚染対処特措法の成立から2年、遅々として進まないばかりか、期待したほどの効果が上がらない除染への不満やいら立ちの声が、福島県民から漏れ聞こえてくる。

彼らの言葉から見えてきた被災地の厳しい現実とは?

■除染のエリア分けで住民が分断されている

昨年7月にスタートした国による直轄除染の対象は福島県内の11市町村。今年度中に除染を済ませ、線量が下がった所から避難指示を解除するはずだった。

ところが、除染はベタ遅れ。そのため国は7月下旬、双葉町、浪江町、南相馬市など7市町村について、除染作業を1、2年間延長すると発表した。

ある環境省職員がこう嘆く。

「飯舘(いいたて)村で計画の2%、葛尾(かつらお)村で1%、川俣村で0%。双葉町にいたっては除染計画すらありません。遅れの原因は中間貯蔵施設建設にメドが立っていないため。汚染物質を保管する所がないのでは、除染はできません」

おかげで、国の除染予算も大余り。2012年度の除染経費6556億円のうち、67・9%が使われないままとなっている。

環境省職員が続ける。

「上司からは『予算を余らせるのは省としてマズい。除染を早くやれ』と、矢の催促です。ただ、大きな声では言えませんが、ここまでベタ遅れになると、もはや除染はあまり意味がないんです」

いったい、どういうこと?

「福島第一原発から放出されたセシウム134と137の比率はほぼ1対1で、半減期はそれぞれ2年と30年です。そして、原発事故から2年半たった今、放射能は四十数%減衰していると考えていい。国の目標は今年度中に住宅地などの線量を半減させるというものでした。つまり、巨額の除染費を投じなくても、当初の除染目標は自然減衰の効果でクリアされつつあるんです」



この状況を、被災地の住民たちはどう受け止めているのか?

福島県いわき市南台にある双葉町応急仮設住宅―。

全259戸に双葉町から避難してきた町民約450人が住んでいる。住民のひとりがこう語る。

「除染? 最初は期待したけど、今はもうあきらめていますよ。線量の低い自治体ですら、国の長期目標の毎時0・23マイクロシーベルトに下がらずに悩んでいると聞いた。双葉町は年間50ミリシーベルト超のエリアもある。半分の25ミリに下がったからといって、すぐに帰れるはずがない」

別の住民もこう話す。

「除染で復興が進むんだろうか? 逆に線量で線引きされることによって、双葉町の町民が分断と反目に追いやられるような気がしてならないんだよ」

このコメントには少々、説明が必要かもしれない。

8月8日、国は放射線量に応じて避難区域を3つの区域にする作業を完了させた。段階的に避難指示を解除する「避難指示解除準備区域」(年20ミリシーベルト以下)、「居住制限区域」(年20~50ミリシーベルト)、5年以上たっても年20ミリシーベルトを下回らないとされる「帰還困難区域」(年50ミリシーベルト超)の3つだ。

この結果、双葉町はふたつのエリアに線引きされた。町面積の96%が「帰還困難区域」に、北部海沿いの残り4%、中浜、両竹(もろたけ)、中野の3地区は「避難指示解除準備区域」となった。

住民が続ける。

「友達の家がその4%のエリアにあるんだ。俺の家は帰還困難区域にあるから、精神的損害として5年分1人当たり600万円を一括して補償してもらえる。でも、友達の家は線量の低い避難指示解除準備区域にあるから、月に10万円ずつしか補償されないと聞いている。町の4%がきれいに除染されて人の住める環境になったとしても、残り96%で線量が高く、インフラも復旧しないままでは帰還は無理だよ。生活できないから。

なのに、補償に差がつくのでは3地区の住民は不満だし、残り96%の地域の住民をねたむようになるだろ? そんなふうに除染のエリア分けで、町民を線引きしてほしくないんだよ。そんな除染に力を注ぐくらいなら、避難先のこの仮設住宅での暮らしをもっと支援してほしい」



■避難する権利を主張できない理由

だが、国にそうした被災住民の声が届いている様子はない。その象徴が昨年6月に成立した「子ども・被災者生活支援法」への対応だ。国際環境NGO(非政府組織)「FoE Japan」の渡辺瑛莉氏が語る。

「被災者に被曝を避ける権利を認め、支援するという法律です。ところが、この法律がいまだに実施されていない。予算も1円もついていません。チェルノブイリ原発事故時、旧ソ連は年間1ミリシーベルト以上の土地に住む住民に移住の権利を認め、支援した。ところが、日本では20ミリシーベルト以下は住んでも大丈夫とされ、避難よりも除染が優先される傾向にある。避難を望む被災者の権利はもっと認められるべきです」

確かに、避難住民への支援は貧弱だ。2013年度予算でも、7094億円の原子力災害復興関係経費のうち、6095億円が除染・廃棄物対策に投じられ、被災者のために使われる額は675億円にすぎない。

しかも、その多くは福島県内に住民を戻すためのものだ。「避難区域等帰還・再生加速事業」(72億円)、「福島中通り等への定住支援事業」(100億円)といったメニューが並ぶ。

福島県郡山市から山形県山形市へ、3人の子供と自主避難中の主婦、中村美紀さんが現状を説明する。

「郡山市は原発から30km以遠で避難指示の対象ではありませんが、娘の学校の空間線量が1.5マイクロシーベルトもあったため、夫を残して山形へ自主避難しました。ただ、郡山と山形の二重生活の負担は大きい。経済的にも大変だし、夫が郡山市に戻る前夜は子供たちは泣いて寂しがります」

なのに、東京電力からの一律賠償は昨年8月分で打ち切りに。それ以降の経費については原子力損害賠償紛争解決センターに持ち込み、東電と交渉するしかないのが実情だ。

県外に自主避難中の別の女性は安倍政権が原発輸出に力を入れていることに違和感を覚えるという。

「安倍首相がトルコを訪問して原発輸出を決めるなど、経済、外交面で原発促進の政策が進む一方で、被災者支援、特に自主避難者へのサポートは遅々として進まない。『子ども・被災者生活支援法』を放置していることといい、国は被曝を避けたいと願う避難者を支援しようという気持ちが欠けているのではないでしょうか」

だが、こうした訴えはなかなか聞こえてこない。女性が続ける。

「避難した人々のことを福島に残った県民は、快く思っていないんです。こちらは放射能から子供を遠ざけようとしただけでも、残った人々の目には、故郷を捨てて逃げた裏切り者、“非県民”と映る。だから、それ以上の反発を受けたくなくて、避難の権利を主張することを控えてしまうんです」






復興を大義名分に、避難より除染を優先し、まだ線量の高い被災地へ住民を戻そうとする―。

そんな空気に強く反発するのが前双葉町長の井戸川克隆(いどがわかつたか)氏だ。反原発を訴え、先の参院選に「みどりの風」比例区から出馬したが、落選。その井戸川氏が語る。

「今の除染を私は否定します。線量の高い場所へ住民を連れ戻すための見せかけ、偽りの除染だからです。住宅から20mまで除染して、それ以遠はやらないなんて、どう考えてもおかしい。年間20ミリシーベルト以下の場所は住んでもよいという基準もそうです。なぜ、それで安全なのか、説明など一切ない。福島に住んでいない人が、住んでいる人の安全の基準を決めているなんて、おかしいと思いませんか。そんな無責任な基準を信じて住民を戻せません。だから、私は町長として双葉町は除染をしない、町民ごと県外に避難すると決めたんです」

だが、福島県からは住民を県内に戻すよう圧力がかかった。

「埼玉県加須(かぞ)市にまず町民1400人が避難した後、第2陣として茨城県つくば市に町民を移そうとしたのですが、福島県庁が強く反対し、協力を拒まれてしまった」

そのため、つくば市への集団避難はついに実現しなかったという。

「当時、私が考えていたのは、線量の低い県外に仮の双葉町をつくるというもの。土地とインフラを他自治体から借り、町民の本籍は双葉町のまま、その“仮の町”に住民票を移して避難する。そうすれば、町民の連帯感もコミュニティも維持できる。故郷へ戻るのは線量が落ちた後にすればいい。効果のない除染に巨額の予算を投じるくらいなら、それを県外の仮の町づくりに流用すべき。1兆円もあれば、仮の町はいくつもつくれるはずです」

だが、町議会は“仮の町”構想に反発、井戸川氏は町長退任を決意することに。今では福島県いわき市に大規模な双葉町支所がつくられ、町民6898人中1582人が住む最大の「双葉コミュニティ」がつくられた。その一方で、埼玉県加須市の避難所の県外コミュニティは107人に激減している(8月1日時点)。

「国と福島県は危ない賭けをしています。線量の高い所に無理に住民を戻して、将来、子供たちに健康被害が出たら、どう責任を取るつもりなんでしょう?」

非県民呼ばわり覚悟で、こう発言する井戸川氏。その問いかけに、国はどう答えるのだろう。

(取材・文・撮影/姜 誠)

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