10年ほど前に公共広告機構(現・ACジャパン)のCMで「江戸しぐさ」が取り上げられ、注目を集めた。江戸時代にはお互いが気持よく交流できるための「江戸しぐさ」というマナーが普及していて、現代人も参考にしよう、というものだ。
例えば、雨の日に狭い路地をすれ違うときには互いに傘をかしげてお互い濡れないようにする「傘かしげ」。渡し船に一人でも多く乗ることができるように、こぶしひとつ分腰を浮かせて詰める「こぶし腰浮かせ」といったものがそれだ。
なるほど、確かにこうした譲り合い精神に基づくマナーは、現代でも応用が効きそうである。とはいってもすでにACのCMから約10年、こうしたブームも下火になっている、かとおもいきや、異なる角度から最近また注目を浴びている。
今回の注目のされ方について、具体的なことを的確かつ手っ取り早く知りたい方は、「日本トンデモ大賞2013」における古史古伝の批判的研究者・原田実氏の講座動画(記事最後のリンク参照)をご覧いただくのが分かりやすいが、要は江戸しぐさって本当にあったのか? という疑問が沸き起こっているのである。
例えば、先の「傘かしげ」だが、実際の江戸時代では傘が高級品だったため、すれ違うときにお互いに傘をかしげるなんてことが一般に普及するほど頻繁にあったのか? とか、正確な時計や電話がない時代なのにアポなし訪問が「時泥棒」と呼ばれて死罪レベルの重罪だったってどういうこと? といった指摘が、掘れば掘るほど出てくる状態。そしてどうやら、実際には当時の史料も見当たらないらしい。
江戸しぐさを推奨する側からは、明治期に「江戸っ子狩り」なる弾圧があり、その際にこうした史料や伝承は表舞台から抹消されてしまったのだ、という話が、こうした指摘が出る以前から挙げられている。しかしこれもまた、そんなバカなと突っ込まれる要素のひとつになっているようだ。
とにもかくにも、この件での批判側が最大の問題としているのは、マナーを推奨しているにもかかわらず、その手段として存在が疑わしいマナーをあたかも存在したかのように、歴史を捏造するというとんでもないマナー違反をしている、という点だ。
もっとも、江戸しぐさを推奨する側でもなく、特に批判する側でもない立場からすると、今現在実行することでいろいろと利点のあるマナーなら、参考にしてみてもいいかもしれない、とも思ったりはする。
とはいえ疑念は晴れない状態なので、疑念が晴れるまでは、「江戸しぐさから学んだ」ということは喧伝しない方がよいかもしれない。
(田中 元)
※写真は、越川禮子著『暮らしうるおう江戸しぐさ』(朝日新聞社)より
【関連情報】
日本トンデモ本大賞2013 (動画)
http://www.ustream.tv/recorded/34008641
越川禮子『暮らしうるおう江戸しぐさ』(朝日新聞社)
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=8224
[ 関連リンク ]
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