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映画『標的の村』が伝える、オスプレイ強行配備のウラにあった知られざる沖縄の怒り

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「市民を守るために警官になったんだよねえ?」「警察も本当はこんなこと、やりたくないだろう?」

沖縄県民のやり場のない怒りの声が、ドキュメンタリー映画『標的の村』に記録されている。

昨年9月末、垂直離着陸輸送機オスプレイの強行配備に反対する県民が、米軍普天間基地の全ゲートに車を横づけして完全封鎖するという前代未聞の抗議運動が起きた。そして沖縄本島北部の東村(ひがしそん)・高江(たかえ)集落でも、6つのヘリパッド(オスプレイの簡易発着場)の建設をめぐって、2007年から抗議の座り込み運動が続いている。

カメラはそのふたつの出来事を追い、抗議する側と取り締まる側の応酬、その最前線の現場を収めるとともに、双方が同じ沖縄県民であるという心が重くなる現実を伝える。QAB(琉球朝日放送)のニュース映像を映画用に編集し、基地問題の新たな矛盾点を提示する監督・三上智恵氏に話を聞いた。

■政府から訴えられた沖縄の小さな村の住民

―普天間基地のゲート封鎖で、沖縄県民を取り締まるのは同じ沖縄の県警と機動隊。米兵は遠くからニヤニヤ眺めていて、正直イラッとしました。沖縄はいったい誰と闘っているのだろうと、考えさせられるシーンですね。

「基地拡大に全面的に賛成の人なんて沖縄にはひとりもいません。そして映画の中でも取り締まる側を悪者としては扱っていません。県警も実際は“命令”で動いているわけです。住民との攻防に心を痛め、寝床から出てこない警察官がいたという話も後日、聞きました。じゃあいったい誰が悪いのか? 沖縄に基地が集中して生活不安が絶えないのはなぜか? それを考えてほしくて作りました」

―衝撃的なのは、1960年代に高江集落にあった「ベトナム村」の存在です。ベトナム戦争時の軍事演習地に高江が選ばれ、村民はベトナム人のように三角帽をかぶり黒い衣装を着て、村人の役として演習に協力したという屈辱的な出来事があったんですね。

「沖縄の人でも知らないでしょうね。高江の人も進んで協力したわけではない。演習地の山の中に入らないと彼らの暮らしを支える林業が営めないので、交換条件のように受け入れたそうです」



―村民への見返りはあった?

「兵隊に配られるレトルト食品のような非常食をもらっていたそうです。何しろ貧しい時代ですから。“子供を連れて危険な仕事の手伝いをしたくなかった”と語ってくれた老女もいましたが、いまさら波風を立てるつもりはないと、撮影は断られました。ところが時代が変わっても、米軍ヘリは夜間だろうと今も集落のわずかな明かりを目印に旋回して、やりたい放題。まるで標的にされているようで、“これじゃベトナム村と変わらない……”と、高江でカフェを経営する通称“ゲンさん”は嘆いています」

―高江でのオスプレイのヘリパッド建設に対する抗議の座り込み運動はとても平和的です。しかし日本政府は、そんな高江の人々を「通行妨害」に当たるとして起訴します。驚きました。

「力を持つ企業や自治体が、声を上げた個人を弾圧・恫喝するために訴えることをアメリカではSLAPP(スラップ)裁判と呼んで禁じていますが、日本政府は同様の裁判を、08年に高江という小さな村で起こしました。15人の住民を通行妨害で訴えて、そのうち例えばゲンさんは取り下げ、木工職人の伊佐真次(まさつぐ)さんに対しては訴えを続けるなど、運動の分断を図ろうとします」

―裁判のその後は?

「第二審でも伊佐さんの表現の自由は認められず敗訴となり、今年7月、最高裁に上告しましたが、ここで負けて座り込みは通行妨害との判例ができるのが心配です。政府は前例を作り、辺野古基地建設の反対運動を司法の力を借りて封じ込めるつもりのようです」

■抗議にも歌と音楽を。“鈍角の闘い”とは?

―こんな印象的なシーンもありました。高江に防衛施設局の職員や建設会社の作業員が押しかけ、建築用資材を無理やり運び込もうとします。反対する住民との間で怒号飛び交うなか、ある女性が沖縄の有名な民謡『安里屋(あさどや)ユンタ』を歌いだす。すると住民が歌に合わせて踊りだす。音楽の国・沖縄ならではの光景ですね。

「闘いの場でも、沖縄はいつもそうなんです。ずっと政府や米軍という巨大な存在と闘ってきましたよね。抗議のやり方が鋭角すぎると怒りの矛先が折れてしまうので、“鈍角(どんかく)の闘い”をするのです」

―鈍角の闘い?

「抗議運動をしながら、バーベキューをしておいしいものを食べるとか、歌ったり踊ったり。“遊び”の部分がないと明日に続かないし、今日持ってる力をすべて出し切ってしまうと明日は参加者が減ってしまう。それに急に歌うとか踊るとかすると、相手側の緊張も思わず緩んでしまう。遊びを入れるというのは、長年の知恵なんですね」








―防衛施設局との緊迫したやりとりのなかにもユーモラスな場面がありますね。前述のゲンさんが局員のおなかを触って“ずいぶんだな、ダイエットしたほうがいいぞ”なんて小声で話したり(笑)。

「高江の女性陣はバレンタインデーに防衛施設局の人にチョコを配ったりします。そこで相手の名前を知って、それからは名前で呼んだりする。すると向こうも厳しくはできなくなるのが人情です」

―最後に監督は、この作品をどんな人に観てほしいですか?

「これまでは沖縄の抗議を本土の人に伝えても“結局、ゴネた上で補助金が欲しいんでしょ?”なんて冷や水をかけられることがありました。でも福島の原発事故があって、国策として原子力政策を日本の過疎地域に押しつけるという構図に人々は気づいたわけですよね。うかうかしてると自分も国策の被害者、かつ加害者になってしまうぞ、という現実に気づいた国民がたくさんいるはずです。あなたも、知らないうちに国策の加害者になっていませんか?と私はこの作品で皆さんに問いたい。

原発も基地問題もその構図は一緒です。“オスプレイで誰かが犠牲になっても自分さえ安心ならいい”と言い切る国民は本当はいないと思うんです。状況を見ていただければ、こんなことは許されない、加担したくないと、ツイッターでもなんでも声を上げてくれるのでは。この映画で“うちあたい”して、自分の問題にしてほしいのです」

―“うちあたい”というのは?

「自分の心の中に刺さる、ズキッとする感覚のことを沖縄では、そう呼びます。この映画は、きっと“うちあたい”するはずと思っています」

(インタビュー・文/長谷川博一 撮影/樋口 涼[三上氏])(c)琉球朝日放送

●三上智恵(みかみ・ちえ)






1964年生まれ、東京都出身。父の仕事の関係で12歳から沖縄に通い、成城大学卒業後、大阪毎日放送入社。95年、琉球朝日放送の開局とともに沖縄へ移住。ローカルワイドニュースのキャスターを務めながら番組制作に奔走

■『標的の村』はポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー








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