
エコだったり、ロハスだったり、ノマドだったり。いろんなライフスタイルやワークスタイルを模索し、より自分らしい生き方を実現していくことは権利であり、その権利は誰にも平等に与えられているという考え方が少しずつ市民権を得ているような気がする今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか?
いまや「ノマドワーカー」と聞いただけで、明らかに不機嫌になる人もいるほどです。
「ノマドワーカーってあれでしょ、あのコーヒー1杯でスタバで何時間もMacのノートパソコン開いて、おれってどこでも仕事できるんだぜ、かっこいいだろってなドヤ顔で仕事している人?」というイメージがみなさんの中にはあるかも知れません。ですが、それはノマドワーカーと分類される人たちのほんの一部。せっかくどこにいても仕事ができるというのに、わざわざ都会の混み合ったスタバの狭い席で隣の人と肘をすりあわせながら仕事をするなんてまるで意味がわからない、と考えている方も多いと思います。
以前、「ノマドワーカーがクールだなんて幻想だ、というお話」の記事にも書きましたが、この記事の筆者であるまいるす・ゑびすはノマドワーカーという言葉が浸透するずいぶん前から働きながら旅をする、という生活を送って来ています。
どこででも仕事ができる、という選択肢がせっかくあるというのに都会のせせこましいカフェで仕事をするなんていうのは個人的にはまっぴらごめんなわけで、常に快適に仕事ができるところはないか、と目を光らせていたりするのですが、そんな僕のところにある時、「築150年の巨大な古民家を改造したオフィスでしばらく働いてみないか?」というなんともありがたいオファーが舞い込んで来たのです。しかも元々旅館だったというこの建物は寝泊まりも可能。そんなわけで少し遅い春の雰囲気が漂い始める岐阜県飛騨市に位置する『源七』という古民家オフィス(上の画像)を単身、突撃取材して参りました。
新宿西口からバスに乗り込み、揺られることおよそ5時間で高山駅に到着。そこから電車に乗り換え飛騨古川駅へと。そして飛騨古川駅から車で走ることおよそ20分。あたりに文字通り何もない国道41号線沿いの標高900メートルの場所に源七はあります。
風情ある古民家の木の温もりに高い天井、そして囲炉裏の風景と築150年の貫禄。そのすぐ横にあるメインルームの巨大なテーブルは複数人でも快適に作業ができる仕事スペースです。Wi-Fiパスワードを全てのデバイスの登録してしまうと、すぐにそこは仕事場に早変わり。プロジェクタや70インチのスクリーン、プリンタ、ホワイトボードなどもあり、チーム単位のミーティングなどに最低限必要なものは全て完備されています。茶室を改造したミーティングルームなんかも風情があってとても良い感じです。よく晴れた日に障子を開けると庭の向こうに山の風景が広がり、周りからはほとんど物音が聞こえてこない静かな環境なので、集中して仕事をする時にもちょっとひと息つく時にも理想的な環境です。

飛騨エリアについて 〜なつかしいがあたらしい
古い町並みが有名でたまにテレビでも紹介されている高山市には、足を運んだことがある方も多いかも知れません。飛騨古川はそこからさらに車で20〜30分行った所にあるので、高山に行ったついでに日帰りで訪れる人はいても、観光客の方で飛騨古川に長く滞在するという方は珍しいようです。
飛騨エリアは昔からアクセスが悪く「陸の孤島」と呼ばれており、高度成長期の時代も他の都市と比較して発展のスピードがゆるやかだったため、今も昔ながらの風習や食文化が強く残っている珍しい場所です。そのせいか初めて来る人でも都会で育った人でも、どこかしら「なつかしい」と感じる、昔の日本を彷彿とさせる風景に出合うことができます。
また、この地域では農作を行い、余った藁を使ってミノや草履や茅葺屋根を作ったり、家畜のえさにしたり、土の栄養分としたりといった循環サイクルが今もなお実践されいます。完全な自給自足とまではいきませんが、今流行りのいわゆるサステイナブルな生活を昔からずっと繰り返して来たという歴史があります。そんな古川の昔からの習わしを象徴するようなエピソードがあるのでご紹介します。

古川の町並みを流れる瀬戸川という川があります。その昔は泳いでいる魚を捕まえて食べられるくらい澄んだ水も、しかし時代と共に少しずつ汚れてしまったのだそうです。瀬戸川をきれいにするために町が実行した戦略はとても画期的なものでした。川を清浄に保つのに必要なのは町の人たちみんなに「川を汚したくない」と思ってもらうことだという考えのもとたくさんの鯉を放流。そしてその結果、実際に川の水質は改善されたそうです。
そんな試みが実践される素敵な古川の町ですが、実はこの地域も日本の多くの地方都市と同様の問題を抱えているのです。
なぜ古民家がオフィスになったのか?
源七以外にも古民家を改造したレンタルオフィスを運営している飛騨里山オフィスプロジェクトは、株式会社柳組と株式会社美ら地球(ちゅらぼし)の共同プロジェクトなのですが、そもそもなぜ古民家をオフィスにすることになったのかという経緯を担当の竹川さんに聞いてみると:
飛騨地域には文化的、歴史的に見ても価値の高い古民家が数多くありますが、住む人がいない家はどんどん状態が悪くなっていきます。高齢化、過疎化が進むこの地域の古民家は空き家になっていることも多く、冬は深い雪に閉ざされるため、屋根の雪下ろしなど、古民家を保存するための人手も必要です。
独自に調査してみて分かったのは、飛騨市の戸建家屋のうち9%が既に空き家だということ、そして、65歳以上の高齢者のみの世帯を加えるとその数字は一気に23.1%にまでふくれあがるということ。我々の取り組みとして「これがかつてここの地域の人が暮らしていた家ですよ」と人が住んでいない家を博物館のガラスケースに入れるように展示することは避けたいと考えています。実際に人に生活してもらい、人が暮らすことによって古民家を保存し、この地域の物語を可能な限り新しい世代へ繋いでいくのがベストだと考えています。
古民家は一度解体してしまえば、もう二度と同じものを作ることはできません。古民家を救済する方法のひとつとして考えたのが、レンタルオフィスに改造すること。それにより今までになかった用途を生み出し、飛騨以外の場所から人を呼ぶことができるのではないか、と考えたのがそもそもの発端です。
とのこと。
今回滞在した源七のすぐ近くには遠くは富山からもわざわざ水を汲みに来る人がいるというほど水質の良い給水場があり(水はいくらでも無料で持ち帰れる)、仕事をしながらきれいな空気を吸い込み、きれいな水を飲み、鳥のさえずりに耳を傾け、夕方は温泉につかるなどできるので、仕事がはかどらない理由は頑張っても見つからないほどの完璧な環境です。源七での滞在は1週間から可能で、今なら滞在人数に関係なくお試し価格の5万円という破格の値段設定となっています。会社のプロジェクトチーム10人で行けば1人当たりの滞在費用はなんと5000円です(ただし別途布団のレンタル代が必要)。
次世代ノマドのキーワードは「脱東京」
考えてみればほんの十年前まではインターネットさえあればどこでも仕事ができる、というのはあまり現実味のない話だったと思います。ですが、今では安定したインターネット環境を日本のほとんどの場所で使用することが可能です。そして、それに伴いノマドワーカーなどに代表される「新しい働き方」も年々増加する傾向にあります。
従来の働き方の場合、業種によってはどうしても東京にいなくてはならない場合が多かったと思いますが、インターネットがあれば仕事ができる業種枠も増えています。同時に、わざわざ狭いアパートに高い家賃を払ってまで都会で暮らすよりは、自分のライフスタイルに合った場所でのんびりと暮らしたい、という人が今後も増加していくことが予想されます。
スキルをもった人たちが地方にちらばり始め、地域のコミュニティに参加する。それによって、あらゆるものが東京に集中している現在のいびつな日本の形が是正され、少しずつ地方再生に繋がって行くのがひとつの理想なのではないかと考えます。古民家をオフィスとして再生するという新発想は、そんな新しい日本を支えて行く根底となるアイデアなのではないでしょうか?
地方の人が東京にやって来てしばらく生活した後にまた地方に戻って行くことを「都落ち」と表現することもあります。
都会から田舎へ行く、ということは従来の考えでは華やかな印象はないかも知れませんが、都心から地方へ引っ越していった人たち、特に若い世代の人と接したときに共通して僕が感じるのはちょっと違っていました。彼らは純粋に<もっと楽しい暮らし><もっとやりたい仕事><好きなもの>に囲まれて生きて行くための環境を追いかけた結果、たまたま今の場所に流れ着いたどこまでもアクティブな人たちという印象です。彼らの中には海外経験もあり、英語を話せるという人たちも比較的多く、それに加えてなんらかのスキルを持った人たちが東京を「卒業」した姿であるようにも思えます。
今回の取材でも古川で暮らす20代、30代の人たちと源七の囲炉裏を囲ってお話をする機会があったのですが、彼らは決して都落ちしたわけではなく、彼らは東京での暮らしもそれはそれで好きだったのだけど、その先を見るために他の人よりも早くさらなる一歩を踏み出した新しい発想を持った人たちではないかと思います。

日本各地の数多くの自治体が移住支援を行っていて(なかには無料で土地がもらえるという場所も)、飛騨市も移住者に対して10年の間、毎年米を1俵無料でもらえる、という企画を行っていて、田舎に移り住むには条件的にもタイムリーな感もあります。
「東京/東京以外」「都会/田舎/ど田舎」という線引きにとらわれない
「アイデアは移動距離に比例する」という話を高城剛さんが何かの本に書いていましたが、田舎と都会の二重生活、日本と外国の二重生活、という選択肢も実際に可能です。むしろ仕事にとってプラスになることも考えられる今日この頃の世界では、仕事をするための環境だったり、仕事に対する哲学だったりの固定観念は急速に変わりつつあります。
日本国内と日本国外の線引きすらも曖昧になりつつある今だからこそ「東京」「東京以外」「都会」「田舎」「ど田舎」という線引きにとらわれることなく、自分は水や空気が綺麗なところで暮らしたい、山や海の近く、または島で暮らしたい、仕事をしながら農業もやりたい、広くて静かで家賃が安くて快適な生活環境が欲しい、という素直な願望を追求してみたところでやりようによっては他人様に迷惑をかけなくて済む時代です。いろんな人と話していると東京にどうしてもこだわってしまう理由として「多種多様な人がいて本当に面白い」という話をよく耳にしますが、そんな状況も少しずつですが今変わろうとしています。
日本全国津々浦々にある面白そうな仕事場だったり、風変わりなレンタルオフィスだったり、そこに集う人たちのコミュニティだったり、というのは今後ライフハックという言葉や新しいライフスタイルやワークスタイルとも密接な関係を持って来る気がしてならないので、これから本格的に注目していきたいところです。面白そうなところには実際に取材に出かけてみたいと考えているので、オススメの場所、記事で取り上げて欲しい場所などがあればTwitterまたはFacebookでぜひ教えてください!
飛騨里山オフィスプロジェクトは源七以外にも古民家オフィスを手がけているので、ちょっと行ってみたいかも、という方は下記のウェブサイトをぜひチェックしてみてください。
飛騨里山オフィスプロジェクト
(まいるす・ゑびす)
■あわせて読みたい
「脳の時間認識」を生かせば、〆切もミスも価格交渉も上手く乗り切れる
パワポでアメージングなプレゼンをするためのTips
原因不明の疲れやダルさに襲われた時、チェックしたい基本のポイント
いやらしくならずに自分の業績をスマートに伝える方法