早いもので山小屋生活も1ヵ月。その間、たくさんの出会いやさまざまな出来事がありました。『富士で暮らせば』第4回は、そのなかからふたつの事件をピックアップして、松下幸司がお届けします!
■頂上行くので息子をお願いします!
ある日、僕が山小屋で番頭をしているときのこと。親子ふたりがガラガラと扉をあけて入ってきました。
僕「いらっしゃいませー! ……???」
明らかに子供の調子が悪いのが見てとれました。
母「すみません、息子の調子が悪いので休ませていただけませんか?」
容体を聞くと高山病の傾向があったので、すぐに下山するように促しました(高山病は休んで治るものではありません。そのまま高地に滞在すると悪化する可能性が大きいので、歩けるうちに下山するのが一番。下ると治ります)。
すると母親は「息子をしばらくここで寝かせてください」
僕「ここにいても悪化するだけなので、まだ歩けるうちに下山してください」
母「私はこれから頂上行きますんで息子をお願いします」
僕「?!?!?!」
一瞬、僕は自分の耳を疑いました。
僕「はい?」
母「いえ、ですから私は頂上に……」
僕「えーと、それは息子さんをひとりここに残していくということですか?」
母「すいませんがお願いします」
僕「すいませんじゃなくて、下りましょうよ。息子さんこんなにつらそうなのに一緒に下りましょうよ」
息子さんはまだ小学1年か2年生くらいでした。どうしても頂上に行こうとする母親を説得して最終的には下ってもらいましたが、僕は正直ビックリでした。あんな小さい子がつらい思いをしてるのに、自分の欲求だけで「ここまで来たから登りたい」「ちょっと休ませたら治る」なんて。見ていてキツかった。
こんな厳しい環境下にある富士山で、小さい子なんてひとりになるだけでも不安で不安でたまらないのに、ましてや体調が悪く余計に弱っているときに誰に一番そばにいてほしいって、親に決まってるでしょうよ~!
昔、これとよく似たケースで山小屋が子供だけを受け入れたことがあったんだけど、親がいない不安感から子供が大騒ぎしたらしく、それからは小さい子供だけを引き受けることはしていないみたいです。もちろん緊急時は除いてですけどね。
話は戻りますが、疲れて歩けない子をひとり残して行ってしまうお父さんお母さんって、案外少なくないんですよ!
実は今日も山小屋の外のベンチにひとりでうずくまってる子がいたんで話しかけたら、両親ふたりとも上に行っちゃったって……。ありえないですよね。何かあった後では遅いんで、すぐに山小屋の中に保護して不安感が少しでも軽減できるよう従業員みんなで遊んであげてました。
どうかもっとお子さんの気持ちになって考えてあげてほしいですね~、切実に!!!
■バタバタ倒れゆく人々
バタ…バタ…バタ…
ある日の夜、山小屋に宿泊のお客さんが次々に倒れていく……。
消灯された暗い広間や廊下で次々に崩れていく姿は、まるでホラー映画状態。実際にその光景を目の当たりにすると恐ろしすぎる。もちろん下界では見たことのない光景。
倒れた方は皆、呼吸が荒く白目むき出しの状態。もしかして……亡霊にでも取り憑かれたのか? と思ったが、そんなはずはなく……。
それは“気圧障害”だった。
説明しよう! 「気圧障害」とは天候が下り坂のときに起こりやすい。特に大荒れの天気になる前、突発的に発生し近づいてくる低気圧に体が順応できない人がかかります。症状は頭痛、嘔吐、呼吸困難など。
このような突発的な気圧障害への対処法は、背もたれのあるところにしっかりと座らせ、ゆっくりと深呼吸、携帯酸素缶を吸わせて呼吸のリズムを整える。パニックになっている場合は優しく声をかけて心身ともに落ち着かせる。そうするとあら不思議。数分後にはケロっと治ってしまうんです。恐るべし人間の回復力!
この事実を知らなかった自分は、なんて恐ろしい場所に来てしまったんだと己を悔やみました。
そしてそして、人間は意識を失い倒れるときには、どこを怪我するわけでもなくうまく倒れるのだ。こりゃまたすごい!
結局、この夜は4人ものお客さんが立て続けに倒れるという恐ろしすぎる夜でした。ただただ、皆さんが元気に回復されてホッとしました!
無事に山頂にたどり着けたかなぁ?
そんなわけで、実際に1ヵ月間、ここ本八合目で暮らしてみて感じたことは、やはり富士山の環境はかなり厳しいということ。天候の急変も日常茶飯事で昔から死亡事故も頻繁に起きています。単に気圧障害といっても侮れません。
「山をナメるな」とはよく聞くけど、まさにそのとおり!
富士山は日本人にとって身近な存在ゆえなのか、軽い気持ちで簡単に登れると思ってる人が多いです。(僕自身も10年前に初めて富士登山したときは、かなりの軽装に足元は普通のスニーカーで痛い目にあいました……。その教訓があったんで2度目はガッツリ準備して登山しました)
富士登山する際は、しっかりした準備と計画を!!
*次回は8月9日(金)更新予定です
●松下幸司(まつした・こうじ)
1982年3月21日生まれ、和歌山県出身。01年に「men’s egg」モデルとしてデビュー。「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」(フジテレビ)、映画「くれないの盃」「タナトス」、舞台「走れ!新九郎」などに出演
●だいすけ
1982年7月21日生まれ、神奈川県出身。Men’s non-no「TBC広告」、花王「サクセス」などCMのほか、舞台「シャバダバ」、映画「てやんDays」などに出演。調理師免許を保有
■ブログ「だいすけ、松下幸司のさすらいの“山男2人組”富士山本八合目奮闘記」 【http://046.holidayblog.jp/】
■頂上行くので息子をお願いします!
ある日、僕が山小屋で番頭をしているときのこと。親子ふたりがガラガラと扉をあけて入ってきました。
僕「いらっしゃいませー! ……???」
明らかに子供の調子が悪いのが見てとれました。
母「すみません、息子の調子が悪いので休ませていただけませんか?」
容体を聞くと高山病の傾向があったので、すぐに下山するように促しました(高山病は休んで治るものではありません。そのまま高地に滞在すると悪化する可能性が大きいので、歩けるうちに下山するのが一番。下ると治ります)。
すると母親は「息子をしばらくここで寝かせてください」
僕「ここにいても悪化するだけなので、まだ歩けるうちに下山してください」
母「私はこれから頂上行きますんで息子をお願いします」
僕「?!?!?!」
一瞬、僕は自分の耳を疑いました。
僕「はい?」
母「いえ、ですから私は頂上に……」
僕「えーと、それは息子さんをひとりここに残していくということですか?」
母「すいませんがお願いします」
僕「すいませんじゃなくて、下りましょうよ。息子さんこんなにつらそうなのに一緒に下りましょうよ」
息子さんはまだ小学1年か2年生くらいでした。どうしても頂上に行こうとする母親を説得して最終的には下ってもらいましたが、僕は正直ビックリでした。あんな小さい子がつらい思いをしてるのに、自分の欲求だけで「ここまで来たから登りたい」「ちょっと休ませたら治る」なんて。見ていてキツかった。
こんな厳しい環境下にある富士山で、小さい子なんてひとりになるだけでも不安で不安でたまらないのに、ましてや体調が悪く余計に弱っているときに誰に一番そばにいてほしいって、親に決まってるでしょうよ~!
昔、これとよく似たケースで山小屋が子供だけを受け入れたことがあったんだけど、親がいない不安感から子供が大騒ぎしたらしく、それからは小さい子供だけを引き受けることはしていないみたいです。もちろん緊急時は除いてですけどね。
話は戻りますが、疲れて歩けない子をひとり残して行ってしまうお父さんお母さんって、案外少なくないんですよ!
実は今日も山小屋の外のベンチにひとりでうずくまってる子がいたんで話しかけたら、両親ふたりとも上に行っちゃったって……。ありえないですよね。何かあった後では遅いんで、すぐに山小屋の中に保護して不安感が少しでも軽減できるよう従業員みんなで遊んであげてました。
どうかもっとお子さんの気持ちになって考えてあげてほしいですね~、切実に!!!
■バタバタ倒れゆく人々
バタ…バタ…バタ…
ある日の夜、山小屋に宿泊のお客さんが次々に倒れていく……。
消灯された暗い広間や廊下で次々に崩れていく姿は、まるでホラー映画状態。実際にその光景を目の当たりにすると恐ろしすぎる。もちろん下界では見たことのない光景。
倒れた方は皆、呼吸が荒く白目むき出しの状態。もしかして……亡霊にでも取り憑かれたのか? と思ったが、そんなはずはなく……。
それは“気圧障害”だった。
説明しよう! 「気圧障害」とは天候が下り坂のときに起こりやすい。特に大荒れの天気になる前、突発的に発生し近づいてくる低気圧に体が順応できない人がかかります。症状は頭痛、嘔吐、呼吸困難など。
このような突発的な気圧障害への対処法は、背もたれのあるところにしっかりと座らせ、ゆっくりと深呼吸、携帯酸素缶を吸わせて呼吸のリズムを整える。パニックになっている場合は優しく声をかけて心身ともに落ち着かせる。そうするとあら不思議。数分後にはケロっと治ってしまうんです。恐るべし人間の回復力!
この事実を知らなかった自分は、なんて恐ろしい場所に来てしまったんだと己を悔やみました。
そしてそして、人間は意識を失い倒れるときには、どこを怪我するわけでもなくうまく倒れるのだ。こりゃまたすごい!
結局、この夜は4人ものお客さんが立て続けに倒れるという恐ろしすぎる夜でした。ただただ、皆さんが元気に回復されてホッとしました!
無事に山頂にたどり着けたかなぁ?
そんなわけで、実際に1ヵ月間、ここ本八合目で暮らしてみて感じたことは、やはり富士山の環境はかなり厳しいということ。天候の急変も日常茶飯事で昔から死亡事故も頻繁に起きています。単に気圧障害といっても侮れません。
「山をナメるな」とはよく聞くけど、まさにそのとおり!
富士山は日本人にとって身近な存在ゆえなのか、軽い気持ちで簡単に登れると思ってる人が多いです。(僕自身も10年前に初めて富士登山したときは、かなりの軽装に足元は普通のスニーカーで痛い目にあいました……。その教訓があったんで2度目はガッツリ準備して登山しました)
富士登山する際は、しっかりした準備と計画を!!
*次回は8月9日(金)更新予定です
●松下幸司(まつした・こうじ)
1982年3月21日生まれ、和歌山県出身。01年に「men’s egg」モデルとしてデビュー。「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~」(フジテレビ)、映画「くれないの盃」「タナトス」、舞台「走れ!新九郎」などに出演
●だいすけ
1982年7月21日生まれ、神奈川県出身。Men’s non-no「TBC広告」、花王「サクセス」などCMのほか、舞台「シャバダバ」、映画「てやんDays」などに出演。調理師免許を保有
■ブログ「だいすけ、松下幸司のさすらいの“山男2人組”富士山本八合目奮闘記」 【http://046.holidayblog.jp/】